床屋
ハサミが頭皮に触れる感触が嫌いで、サイドの髪を切っている時の音を聞くのも嫌い。人に頭を洗われる事にも少しばかりの抵抗があり、ドライヤーは風が頭皮に当たるだけでゾワッとする。
そんな訳で床屋が嫌いな子供だった俺は、他の子に比べると髪は長かった。
「お前鬱陶しいから散髪行くで」
自分から行きたくないのだから、毎回こうして見かねた母に連れられて床屋に行っていた。そして母が言うのは決まって、
「狼ヘヤーにしてやって」
だった。
狼ヘヤーとはなんなのかは分からなかったが、毎回そう注文していたので可笑しな髪型ではないと思っていた。
ニコニコとしている床屋のオバサンは、時々俺に話しかけながら散髪し、出来るだけハサミが頭皮に触れないようにと気を使ってもくれた。
良い人だったと思う。しかし、俺はこれ以降さらに激しく床屋が嫌になる程心に傷をおう事になったのだ。
全てを終えてカバーを外したオバサンは、散髪代を母に請求し、母が小銭を財布から出している間に聞いてきた。
「名前は?」
オバサンからしてみればただの時間潰し程度の質問だったのだろうし、俺も特に何も思わずに自己紹介した。
すると途端に目を見開いたおばさんは、母から散髪代を受け取りながら呟いたのだ。
「男の子みたいやねぇ」
と。




