水族館
日曜日の午後、駅前のデパートに家族揃って行った時の事。
母と姉はデパートに入るなりアクセサリーや化粧品や服を見に行くので、俺達はそれについてウロウロと歩き回っていたのだが、祖母は祖母で服を見にフラフラ歩くので全員が迷子状態になる。しかし、木場家の鉄則があるので焦りはない。
逸れた時は、駐車場に止めた車の前で待機。
母と姉、祖母の姿が見えなくなり、父はそんな3人を探しに行ったまま戻って来ない。そして俺は弟の手を握りつつも人の波に押され…いや、自分の意思でおもちゃ売り場に向かっていた。
おもちゃ売り場には子供を遊ばせておけるようなちょっとした遊び場があったので、そこで弟とボール遊びなどを少々。しかし流石に周りにいる子供は俺達よりも随分と年下ばかりである。しかも日曜日なので人がかなり多い。
仕方ない、遊ぶのはこれ位にして移動しよう。
「水族館行くで」
弟の手を握りながらやって来たのは地下にある食料品売り場。子供2人だけで歩く俺達を不思議そうに見ている店員、しかし俺達は迷子と言う訳ではない。どちらかと言えば家族の皆が迷子なのだ。
「これ、なんて言うの?」
弟は水族館に着くなりガラス越しに見える魚を指差している。
「ヒラメ?カレイ?どっちか」
「ふーん。じゃあコレは?」
横のケースにはまだ生きている海老がビチビチと動いている。
「海老やな。こっちのはカニな」
しゃがみ込んでジィっと魚を眺める弟の横に立ち、周りを見渡せば酒のおつまみを探しに海産物エリアに歩いて来る親父の姿が見えた。その周囲には母の姿も、姉の姿も、祖母の姿もない。
あの3人はまだ迷子の真っ最中のようだ。
「お、ここにおったんか」
ニコニコと小走りでやってきた親父は、座り込んでいる弟の手をとって立たせた。それでも生簀の中が気になる弟は、どうしても知りたかったのだろう、
「お父さん、これヒラメ?カレイ?」
と、質問をした。
親父はジックリと魚を眺め、
「んー、どっちかや」
そう答えて笑った。




