初めての
登校前の眠気に耐える苦行中、ランドセルを背負った所で奇妙な感覚に襲われた。
いってらっしゃいと声をかけてくる祖母の顔が認識出来なくなっていたのだ。
これは誰だ?
いや、祖母ですよ。
それは分かってるけど、これは誰なんだ?
だから祖母ですよ。
そんな自問自答を繰り返しながら祖母の顔を見つめるが、見れば見るほど別人に見えてくる。だからと言って知らない人に感じないのだから不思議で、俺は確認のために声を出した。
「バァちゃん」
心配そうに俺を見る祖母の顔はまだ別人に見えていたが、声を出す事でこの顔は祖母だと自分の中で区切りが付いて、妙に納得した。
これで一件落着、安心して学校に行こう。
そう玄関に向かい、靴を履こうと出した足と腕。
これは、誰だ?
自分だと分かるのに分からない感覚に慌てて鏡の前に立つ。そこに映っているのはランドセルを背負った1人の子供。
誰なんだろう?
鏡に近付いてジックリと眺めて見るが、さっきの祖母と同じ感覚で誰だか分からない。
鏡に映っている時点で自分だ、にしたってコレは誰だ?
再び感じる不快感に、俺はまた声を出した。
「誰だ?」
その瞬間、俺は一気に恥ずかしくなって慌てて玄関に戻った。自分の声を聞いて思い出したのだ。コレは自分だと。
これが初めてのゲシュタルト崩壊経験だったと思う。




