溜り場生活
家にいたくないのにお金がない。そんな時は本屋で立ち読みをしていた俺だったが、先輩と再会してからは先輩の部屋に行くようになっていた。
その部屋は他にも数人転がり込んでいて、溜り場になっていた。
当たり前だが、健全な空間では決してない。
溜り場といえばキラの部屋だが、キラは高校卒業と共に東京だったか京都だったかの大学に行く為に引越し、ゲームセンター仲間達の溜り場はなくなっていた。
キラの部屋では年長者が主導権を握って好き放題していた無法地帯であったが、先輩の部屋の主導権は先輩が握って好き放題している無法地帯だった。
どちらにしたって無法地帯ではあるが環境は大きく違っていて、先輩の部屋にはお掃除係がいたのでそこそこ綺麗だったと思う。
1週間千円で料理と掃除と洗濯を任されたのは俺。
ニートにとっては1週間千円でも0円ではないので有難く、結構頑張ってこなしていた訳なのだが、そうすると他の人からも「じゃあウチもやって」と声がかかるように。
こうして手にしたお金はそのまま貯金へ……いかず、先輩の部屋で開催される麻雀大会へと。
とは言ってもテンイチだし、ハコテン有なので負けたとしても、コンビニのちょっと高級なスイーツの方が高い程度。
そして俺はシマから麻雀の手ほどきを受けた身だったので、そこそこ勝てた。
そんな戦利金こそそのまま貯金へ……いかず、ネットカフェ代へと消えたのでした。
あちらこちらの溜り場に行って掃除をするような生活が続き、流石に疲れきった俺は、実家からの逃げ込み先として溜り場を使う事を止めた。
ちゃんと土曜日まで掃除をしに行っていたのだから仕事放棄にはなっていない筈。しかし先輩達に見付かるとどんな事を言われるのか分からないので、再開した場所である本屋にも行けないし、本屋がある駅周辺にも行けなくなった。
そんな理由からネットカフェの近くにある古本屋さんで立ち読みして時間を潰すようになったが、お金がない時は当然ネットカフェに行かずにそのまま家に帰る事になる。
片道自転車で30分ほどの距離、冬になるとそれはそれは結構厳しい道のりだ。
ある風の強い冬の日、思い切ってシマに相談をしてみた。
出来るだけ遅くまで部屋にいさせてはくれないだろうか?
シマの親父さんは夜の10時には寝てしまう。なので俺は夜の9時にはお暇するようにしていたのだが、そこをシマの就寝時間まで長居させろとの願いである。
夜に家にいたくない。という子供みたいな私事で人の生活をかき乱そうという、今から思えばとんでもない願いだ。
しかしシマの返事はOK。しかも即答。
「ゴメンな」
「えぇよ」
シマの家は快適そのものだった。
夜は静かで、布団があって、風呂に入っていても誰も乱入してこない。それに、無臭。明確には色んな匂いがあるが、部屋がタバコの煙で霧がかっていないし、何より独特の生臭さがない。
あまりの居心地の良さにほとんど毎日行っていた。




