表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SHORTで、俺。  作者: SIN
ニート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

475/485

遠くを流れる時間

 夏が近付いてきた。

 床擦れに注意が必要だと看護師さんが言い、いつも座っている椅子に座布団を巻きつけた。それでも腰の骨が出っ張っているのでタオルを丸めてそこに圧力がかかり難いようにしたりして予防をしていたつもりだったのだが、オムツを替える時、体を拭こうとして背中に赤い痣を見つけた。

 初期段階の床擦れである。

 清潔に保ってください。

 看護師さんはそうアドバイスをくれたので親父と2人がかりでお風呂に入れた。

 「ありがとう」

 祖母は親父にだけは喋る。とは言ってもハッキリではなく、子供のような話し方で、しかも俺には決して見せる事はない微笑付。

 自分では体の向きを変えてくれない祖母と2人きりの日中、1本の電話がかかってきた。その日は点滴の日ではなかったのだが、俺も色々と麻痺していたのだろう、至って普通に電話に出た。もちろんいつもの看護師さんだと思いながら。

 「天神祭り一緒に見ぃへん?」

 電話の相手はシマからで、7月にある花火大会の生中継観賞の誘いだった。

 見に行ける訳がなかった。

 見に呼ぶ事だって、出来る訳がなかった。

 暑さでバテそうになりながらもエアコンを利かせる訳にもいかず、部屋の中は暑い。

 祖母にとっても汗は天敵だったのだが、動いていない祖母にとっては少しエアコンをつけただけで寒く感じてしまうのだ。

 点滴が終わり、看護師さんに相談をした。

 夏バテを起こしているのか、祖母の食欲が更に落ちてしまったからだ。

 「素麺とかならスルッと食べてくれるんちゃうかな?」

 なるほど。と、俺は祖母をベッドに寝かせて素麺を買いに走った。そして家に戻ると見覚えもない靴が2足。うち1足は子供用で、不思議になって祖母の部屋に入ると、そこには姉と姪の姿があった。

 「お前バァちゃん置いてどこ行ってんねん!」

 素麺を買いに、とは口に出ず、どうしてここにいるのかが不思議でしょうがない。

 「なんで?」

 この言葉もちゃんと声になっていたのかどうか不明である。

 姉は1度髪をかき上げるとかなり小声で、

 「オカンがな、おばあさんの顔、もう見れんくなるかも知れんから見て来いって」

 と言った。

 顔が見れなくなる?見て来いってなんだ?

 「おばーちゃん、曾孫やで~、分かる?」

 姪を紹介する姉に怒りが込み上げてくる。

 祖母は元気だった頃、散々曾孫の顔が見たいと言っていた。それを伝えても無視し続けていたくせに、なんでこうなってから来るんだ?もう少し、せめて1ヶ月でも早ければまだ意識はハッキリしていたんだぞ?

姪の手を握りながら祖母は笑顔で、

 「可愛いねぇ、可愛いねぇ」

 と、何度も言っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ