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SHORTで、俺。  作者: SIN
ニート

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骨折

 今まで普通に出来ていた事が、ある日突然苦手になり、次の日には出来なくなる。

 背凭れを使わずに座っている事が出来なくなった祖母は、支えなしでトイレに座る事が出来なくなった。

 そうなると当然階段の上り下りも苦手になっていき、親父は2階の部屋を使っていた祖母と、1階の部屋を使っていた俺との部屋交換を俺の了解もなく勝手に決めた。

 祖母を1階の部屋に移動させる事は、階段の上り下りの度に呼ばれる俺としても大賛成ではあったのだが、せめて1週間程度の準備期間は欲しかった。

 告知があったのが4日の深夜で、引越し決行が6日の朝。

 1日かけて引越しをしてみれば、何の準備も出来ていないと揶揄され、全ての荷物を運ぶのは無理だからと俺の荷物のほとんどは1階の押入れの中に放り込まれる始末。

 そして、まだ自分で動けた祖母は俺が普段何をしているのかを見る為にちょくちょく2階に上がってきた。

 2階の部屋には鍵がないので、プライバシーというものが一切なく、小説や絵を書くことが趣味だった俺の自由時間は失われた。

 夜中にパソコンを起動させても、キーボードの音が煩いからと親父と弟からの苦情が入り、だったら絵を描こうとしても、今度は部屋の明かりを消せと親父と弟からの苦情が入る。

 そもそも、苦情が入らなくても常に親父か弟がウロウロしている2階での創作活動なんて、気が散って出来ない。

 親父と弟が出勤した後は祖母からの呼び出しに答えなければならないので、やはり自由時間はない。

 そんな状態でも年末はやってくる。

 珍しく家族全員揃って年越しそばを食べ、正月を迎えた。

 正月休みの間は親父も一緒になって祖母を見てくれ、少しだけ心に余裕が出来た俺は筋肉が動かせられないならと手足をマッサージしていた。

 部屋中歩かせの刑がない事で祖母の顔も穏やかで、顔を拭く親父に対して笑顔も出ていた。

 そして正月休みが終わり、日中はまた俺と祖母の2人だけと言う生活が始まる。

 「なんや、コレ」

 体を拭こうとしてパジャマを脱がせた祖母の右肩から肘までが真っ青に変色していたのだ。

 内出血にしては広範囲で、色も毒々しい。

 慌てて上着を着せて嫌がる祖母を連れて病院に向かった。

 2件回って受けた診察結果は、

 「肩の骨が外れて、亀裂骨折してます」

 だった。

 祖母の肩を手術するのかどうか、親父と相談をした。

 手術すれば元通りになる可能性があると言われた。手術しない場合は3ヶ月腕を固定して骨を固まらせてからリハビリによってある程度までは動かせるようにする、と言う内容だった。

 そして俺はもう1つ親父に報告をした。

 秋の風の強い日、祖母がステーンと転んでしまった本当の理由。

 足元不注意でもなんでもなく、それは腰の骨が圧迫骨折した事によるものだったのだ。

 医者は祖母の腰をコンコン叩きながら、

 「コレは痛いですか?」

 と声をかけた。しかし祖母は首を傾げた後「痛くない」と首を振った。肩の骨を固まらせるのに必要だといった3ヶ月、骨が固まるのにそれだけの時間がかかるのなら、叩いても痛くない腰の骨は既に固まっていると言う事。

 丁度、秋の時期だった。

 俺が無理矢理に歩かせ始めたあの頃は、もしかしたら骨折の痛みが凄かったんじゃないだろうか?

 痛いから止めろ。

 何度も叫ばれたのに、どうして止めなかったんだろう。

 祖母を直視する事が出来ずに逸らした視線の先にはレントゲン写真があり、もうどうしようもなく自分が許せなくて。けど、思いっきり唇を噛んで泣く事だけは耐えた。


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