異変
秋が終わろうとしている季節、外では冷たい風が吹いていた。
買い物から戻り、買ってきた物を冷蔵庫に入れようとした時、たった今入って来た玄関のドアをノックする音が聞こえた。そして連打されているチャイム。
ただ事ではない。
ガチャっと開けたドアの向こうには斜め向かえに住んでいるご婦人が立っていて、しきりに上を指差しながらこう言った。
「ベランダでおばあちゃんが倒れてる!」
え?え?え?え?え?
頭の中は真っ白で、延々と「?」ばかりが浮かんでくる。それでも階段を駆け上がってベランダに走った。
2階のベランダの窓は全開になっていて、薄暗い部屋の中には風で大きく振れるカーテン。
階段を上がる所までは走れていたのに、部屋の中ではゆっくりとしか歩けない。
怖かったのだ。
そして恐る恐る窓の外を見ると、倒れている祖母。
「なんや、おったんか。ちょっと起こして」
起き上がれないというのは異常な事、なのに声が元気だった事もあって俺は安心してしまった。
「何やってんねん」
抱き起こして部屋に連れて入ると、祖母はゆっくりと歩き出した。
「今朝洗濯する時に転んでしもてな、それからフラフラするんや」
ハハハと笑いながら祖母は説明し、ゆっくりと階段を下りて行き、そこで俺を呼んだ。
また転んで起き上がれなくなったのでは?そう心配して階段を駆け下りた俺に祖母は怒鳴った。
「食べ物散らかして!ちゃんと冷蔵庫に入れなアカンやろ!」
この時、祖母は元気だった。




