「しん」になった
ネットカフェに現実逃避をしに行っていると、どんどん自分という人間が嫌になってくるもので、興味本位でもなんでもなく本気で「迷惑のかけない いきかた」等で検索をかけるようになった。
そこで辿り付いたのはとあるチャットルーム。
同じような思考をした人間が集まって会話を繰り広げる場……ではなく、マイナス思考の人間を、微妙にプラス思考の人間が妙に上から目線で「皆辛い」だの「皆頑張ってる」だのと言うだけの苦行の場となっていた。中には神の使いかなにか?と思えるほど「頑張れば報われる」と発言し続けているしんどい人間まで。
俺は別に励まされたくてそこに行った訳ではないので延々と黙っていたのだが、徐々に「ここ人が多いから」との理由だけで入ってくる一般的な思考を持ち合わせた人間達が増えていき、後はもうどのチャットルームでも繰り広げられているであろう至って普通の会話が流れていった。
結局、そーいうルーム名だとしても、そーいう人間が集まる訳ではないのか。
こうして俺も至って普通に会話を始めたのだが、かなり始めの方からいた人からウィスが飛んできた。
ウィスとは、1対1で話せる内緒話機能の事で、その会話はチャットルームにいる人間には表示されない。
で、そこで送られてきた内容は「お前ウザイ」である。
それを切欠にして嫌がらせレベルが上がっていき、終には他の人間に宛てたウィスで俺の悪口を言うようになっていった。
他の人間へ悪口を言っている事を知れたのは、言われた人間が「こんな事言ってるけど」と教えてくれたお陰だ。だからきっと、もっと過激な悪口も沢山あったのだろうと思う。
それはその日だけに留まらず何日か続き、俺はニックネームを変える事にした。
元は「ジン」で、そこそこの顔見知りもいたのだが、ニックネームを変えるとなるとチャット内の人間関係を一旦リセットする事になる。別に「名前変えたー」と言っても良いのだろうが、それだと嫌がらせをしてくる相手にもばれてしまうので意味がない。
名前を変えつつ、別人になってやり直すまでやらないと意味がないのだ。
で、名前だ。
ジンという名前は「人」という漢字をジンと読んだだけ。
元が「ジン」だから、ひらがなにして「じん」とか?
あ、だったら濁点を取って「しん」にしよう!
物凄くアフォな脳内会議の結果、俺は「しん」になったのだった。




