バレンタイン
バレンタインの前日。
俺は弟と親父、そしてゲームセンターでの知り合いと、バイト先で配る用にカップチョコの大量製作に取り掛かっていた。
チョコを溶かしてはチョコカップに流し入れ、上にナッツを乗せる。それだけの単純作業だというのに、大量になると時間がかかってしょうがない。
にも拘らず、隣にいる甘い物好きのシマは、
「コレは誰にあげるん?」
と、出来上がったばかりのチョコを1個1個指差しながら聞いてくる。
「それは弟」
「これは?」
「バイト先」
「これは?」
「それはゲーセンの……」
パクッ。
そして、どういう訳なのか、ゲームセンターで配る為に作っているチョコだけを食い尽くすのだ。
初めのうちは台所を貸してくれているのだからと黙っていたが、流石に5個も6個も食べられると注意もしたくなる。
「今から作るん、バイト先で配る奴やから、もう食わんとってや!」
「いちいちチョコ配りにゲーセン行くん?」
話しを聞け!
この頃にはもうゲームセンターには行かなくなっていたので、シマからしてみれば態々チョコを配りに行く事が理解出来なかったのだろう。
「仲良かった人もおったし、今までのお礼。みたいな?」
深い繋がりではないものの、居場所のなかった俺を受け入れてくれた場所だし……シマと仲良くなる切欠になった場所だから、恩はある。
「そんなん言うて、沢木さん(仮)おったらどーすんの?」
沢木さんというのは、俺が物凄く苦手にしている年上の人で、当時は顔を見るだけで嫌悪感からゾワゾワする程だった人。
「昼間に行ったらおらんのちゃう?」
「昼間やったら沢木さんだけじゃなくて、全員おらんやろ」
確かに。
「で、ゲーセンに持ってくチョコはどれ?」
そう言ってテーブルに並べているチョコを指差すシマ。
言われてみれば、今までのお礼だからといっても、バレンタインに手作りチョコは可笑しい気がした俺は、頭の中でチョコをあげる人の人数を数えた。
弟、親父、バイト先の店長と、バイト仲間。そして、シマ。
「6個弟で、3個親父。6個店長と、6個バイト先の子」
合計21個。
それなのに、テーブルの上には30個を越えるカップチョコがあり、更にボールの中には溶けたチョコがまだ残っている。
弟と店長は8個にするか?思い切って10個にしよう。
「俺のは?」
たらふく食べた後にも拘らず、更にカップチョコが欲しいと言うシマに、
「ない」
と、答えてから生クリームを冷蔵庫から取り出す。勿論、シマの家から勝手に拝借したのではなく、自分で用意したもの。
ボールに残っていたチョコの半量程度の生クリームを入れて、良く混ぜ合わせ、クッキングシートを敷いたタッパーに流し入れて冷蔵庫の中へ。
1時間後。
弟達にあげる分のチョコのラッピングを終わらせて冷蔵庫の中に入れる時にタッパーを取り出し、上からココアを振りかけて取り出し、裏側にもココアを振りかけてから包丁で適当に切り。
「シマにはこっち」
と、手作り生チョコを手渡しておいた。




