台本係
大まかな流れと、大体の台詞が決まった台本。クラス会議も何もなく決まっていた配役。もちろん庄司さんによる独断と偏見により活発な生徒のみが選ばれて役が決められていた。
仲間内だけで盛り上がりたいのは分かるが、高校最後の文化祭だと自分達で言っておきながら、自分達以外の生徒の事を除外視するその姿勢はどうなんだ?
ここまで独断で事を進めてきた庄司さんだが、台本の1番肝心な部分となる後半を俺にブン投げてきた。
いきなり、突然、拒否権もなく台本係に任命された瞬間だ。
こうして改めて台本を読み込んでみると、グダグダしない方が難しいレベルでスカスカだった。
劇の舞台は教室内。内容的には小学生だろう。そこで1人の生徒のブルマがなくなる。クラス皆で誰が犯人だ?と言い合うのだが、犯人は教師で、ソレを身につけている。という、ちょっとシモネタ?に走った内容となっていた。
生徒らが犯人捜してしている部分が山場となるのだろうが、台詞が
男A「俺じゃないし!」
女A、B「そうよそうよ」
男B「俺でもないわ!」
女A、B「そうよそうよ」
男A、B「お前らどっちやねん!」
のみ。
これはお遊戯なのか?
恐ろしいのは、この部分は既に完成されたものとされており、俺が書いて良いのは、教師がソレを身につけている事がどうやってバレるのかの過程と、教師の言い訳めいた言葉と、オチだ。
何をどう考えたって、舞台上で身ぐるみはがされる生徒。なんて図は不快でしかない。だったら身につけているのではなく、カバンの中に入れている事にするか?オチも変態めいたものではなく、落し物箱の中に入っていた事にすれば……いや、それだとオチが弱い。いや、それで良いのか?
グルグルと考え抜いた結果、俺は新喜劇をお手本にする事にした。
いつまでも帰宅しない生徒達を注意しに来た教師、その時に持っていたカバンを落とし、中からブルマが出てくる。それを見つけた生徒の1人が「犯人見つけた」と教師を指差し、後は全員でボコボコ。わちゃわちゃしている間に幕を閉じ、ナレーションで「落し物箱の中に入っていた」とのオチをつける。その後は大道具係りから順に舞台に上がって全員舞台上で紹介する。
と、書いた。
確かに書いた。
当日に披露された劇で教師役はブルマをはいており、生徒の1人が脈略もなくズボンを脱がすというとんでもない設定で、教師の言い訳は声が小さ過ぎて良く聞こえず、何がなんだか分からないままに幕は閉じ、大道具係も小道具係も舞台上に呼ばれる事もなく……あれだけ手直し無用だと言っていた「そうよそうよ」の部分が恐ろしいまでにグダっていた。
なんだこれは。
結局仲間内だけが仲間内だけで楽しんだだけの何かを見せられただけだ。それなのにソレを俺達のクラスの出し物として紹介されるのは、ちょっとした屈辱でもあった。
劇が終わり、搬出作業も終わった後はクラス全員で記念撮影。それは卒業アルバムにも載る写真なので写らなければならないのだが、そこには他のクラスの活発な生徒も混ざっており、しかも前列の真ん中辺りにワチャっと立っているので、本来のクラスメート達(活発ではない生徒達)が端の方に追いやられていた。
「はい並んでー」
カメラを構えた人が笑顔で声をかけてくるが、俺は目を逸らし、
「いいです」
と断り、活発な生徒達により、
「早く並べ」「場の空気を乱すな」「休めばよかったのに」だのと散々言われてしまった。
卒業アルバムの文化祭集合写真、俺はかなり目つきが悪く写っている。




