帰り道
昼頃に雨がやんで徐々に川の水位が減って来ると、もう1泊するという選択肢は流石に頭にはなく、帰る準備を始めた。
穴が開いて水浸しになったテントを畳み、道路に出る為崖をよじ登り、自転車をとめていた場所へ。
来る時は延々上り坂だった山道、なので帰りは延々と続く下り坂になっていて、雨のせいなのか、それとも元々だったのか、ブレーキの利きにくい自転車でスグ隣を走るトラックと同じようなスピードで降りて行く。こけていたら大変な事になっていただろう。
山を降りて少し行くとコンビニがあった。
「飲み物っ!」
「食い物っ!」
シマとケージはフラフラとコンビニに向かい、それぞれ朝食兼、昼食兼、夕食を買ったようだ。
「木場ちゃんは?なんもイランの?」
弁当を食べているケージは、出来るだけ顔を合わせないように俯いていた俺を呼ぶ。ゆっくりと顔を上げると、水を飲んでいるシマとも目が合ってしまった。
「俺は、別に腹減ってへんし。喉もそんな渇いてへんし」
確実に嘘だったのだが、誤魔化すしかない。本当に減ってないと自分に言い聞かせ、2人の食事が終わるまで顔を伏せていようと思った。
「水分補給はいるやろ?渇いてへんかっても飲んどき」
シマが肩を叩いてくる。そして真正面で水を口にした。
飲みたい。
いや、飲みたくない。喉は渇いてないんだ!
「いらない」
横を向く事で視界からシマを外し、ゆっくりと顔を伏せる。
ここから家までいくらかかっても2時間程度、後2時間もすれば家なんだ。2時間なんてアッと言う間じゃないか。我慢できる!
「どうしたん?どっか具合悪い?やっぱ風邪ひいてもた?」
と、今度はケージが肩を叩いてきた。
違う、そんなんじゃないんだ。
「大丈夫やから、気にせんとって」
俯いて答えるが全く信用されなかったようで、2人は心配そうな目を……直視できない。
本当にそんなんじゃないんだ。だから放っておいて欲しいのに、こんな顔されると心苦しくてしょうがない。
「SINどした?」
このままじゃ折角の思い出が台無しだ。なら、少し恥ずかしいけど、言うしかない。嫌な思い出より、笑われる思い出の方が、マシだ。
「俺……サイフ持って来てない……」




