俺の普通
姉は母が好きで、弟は趣味が合う事もあって親父が好きで、母も姉が、親父も弟が好きだった。
祖母以外の家族は俺を含めて2階の部屋で生活していたが、ある時親父は「おばあさんだけ1人は可哀想だ」と俺を1階に移動させた。
俺はおばあちゃん子に育ち、逆に母と親父に人見知りをするようになる。
完全に母と親父に対して他人行儀でしか接する事が出来なくなった時、突然2階に戻されてしまった。
祖母から「二度と1階に来るな」と拒絶された俺の居場所は、まぁ、どこにもない。
そんな訳で必死になってご機嫌をとろうとしてみても、文武両道な姉や学年上位者の弟に勝る部分など1つもなく、なにをやっても上手くいかない俺にイライラさせる事しか出来なかった。
姉や弟がやると「もーしょうがないなぁ」で済まされる事も、俺がすると……怒られるのではなくて、嫌な顔を向けられた後に舌打ちされる。
褒められる事など滅多にないし、肯定される事もほとんどなかったので、褒められると嫌悪感を抱いてしまうようになった。
なにか裏があるのではないか?
実際、ニコニコと機嫌良さそうに話しかけて来る時程厄介な事を言われてきたので実証済みだ。
人間など信用ならない。
人間なんか嫌いだ。
だから誰もが俺を嫌いになる。
知ってるし、分かってるし、それが自然の流れだ。
これが俺の常識。
なので……
「ハッピバースディトゥーユー♪」
夏のある日、俺の誕生日が近いと知ったシマのお袋さんが、明かりを消した部屋の中で蝋燭の刺さったケーキを出してくれた時は心底どうして良いのかが分からず、
「あ、いや、あの……え?あ、その……」
頭の中は真っ白。
「こういう時は、ありがとう。やで」
隣にいたシマがこっそりと教えてくれたお陰で何とか無礼な人間にならずに済んだ俺だが、教えて貰わないと正解が分からない程のコミュニケーション能力の低さが酷く恥ずかしかった。




