お泊り会
学校の近くの喫茶店でバイトしていた俺は、7時ちょっと過ぎにバイトを終える。それからゆっくりと自転車をこいでゲームセンターに向かい、ベンチに座ってゆっくり缶コーヒーを飲んだり、ゲームセンター仲間と喋ったりして時間を潰す。こうしてしばらく過ごしていると、バイトが終わったシマがやってくる。
ベンチに向かって軽く挨拶をした後ゲームセンターの中に入ってゲームをするシマの横に座り、画面を眺める。
よくシューティングをしていたので、一緒になって弾を避けている気分で画面を見つめるのだが、完全にアイテムだと思ったものが敵の攻撃だったりしたので、俺には難易度は高かった。
「盆って休み取れる?」
ゲームオーバーになり、2人でUFOキャッチャーの商品を眺めていると不意にそう聞かれた。
「盆の間は店自体休みやで」
「俺も休めるし、どっか行こうや」
どっかて何処!?
ゲームセンターの端っこで突然始まった緊急会議。
バスツアーか何かに参加しようと言う意見が出たり、東京に行ってみたいと言う意見が出たり、暑いし出歩きたくないという意見を出したり。
その結果、お互いの部屋に泊まろう。と言う至って普通のお泊まり会に決まった。
こうして当日。1日目は色々と気を使う事になるだろう俺の部屋。
「靴持って入って、後静かにな」
「分かってる」
親父の部屋の電気が消えるのを外で見張り、消えてから10分してから静かに家に入る。当然、喋る声は小声だ。
ダイニングを過ぎ、自室に入って鍵を閉め、買ってきたジュース等を全部出したレジ袋の中にシマの靴を入れる。
「SINの家、相変わらず緊張感凄いわ」
小声で言いながら笑うシマ。
親父に見付かっても「なんで泊まらせるんや」と俺が質問攻めにあった後、ビンタ辺りを受けるだけなので大した事はないが、問題は祖母。見付かれば最後、延々ダイニングに居座り、延々グチグチと文句を言い始める。祖母の言い分は、汚い家を他人に見られるのが恥ずかしいとか。だからってその他人に向かって延々文句を言うのは如何なものなのだろうか?そしてシマはそんな文句攻撃を何度もうけた事のある兵だ。
こんな俺の部屋に泊まり、1番大変なのはトイレである。
話し声は勿論、足音すら聞かれては駄目。そんな状況にも拘らず、用を足している最中に階段を下りてくる足音が聞こえてきたら……途中だろうがなんだろうが速やかに部屋に戻って来てもらわなければならない。まぁ、最中に下りて来られたら潔く諦め、グチグチ攻撃を受ける方が健康的ではあるのだろうが。
シマが祖母に見付かるのは大体トイレだ。
騒げないし会話すらままならないが、それでも一緒にテレビ見たりゲームしたりして時間を過ごし、外が少し明るくなってきた頃に眠る。
「SIN、SINちゃん」
そんな声で目を覚ますと、シマに叩き起こされていた事に気が付いた。
「なに?」
「トイレ……行きたい」
なに!?
時計を見上げると10時、ダイニングにはもう既に祖母の気配。バレずにトイレに行くのは間違いなく不可能。
「よし、ちょっと早いけど移動や」
こういった事も何度も経験済み。
シマはもう既に着替え終えていて、手には靴を持っている。カラカラカラと静かに窓を開け、影が映らないようにとカーテンを広げて持つ。その間にシマは窓から金網をよじ登って駐車場に降り立つ。
「コンビニで待ってる」
もう外にいるのだから普通に喋っても良いと言うのに、シマはいつも駐車場で小声だ。
「分かった」
そして俺も。




