サツキの蜜
ゲームセンターのベンチの後ろには、サツキの生垣があった。
そのサツキが綺麗に咲いた頃、丁度ゲーマー同士で成立していたカップルが破局を向かえた。
彼氏の方と仲良くしていたらしいシマは、当然彼女の方とも面識があり、別れる前には何度か相談にも乗っていたらしい。
しかし2人は別れてしまい、彼氏の方はゲームセンターにも来なくなってしまった。
彼女の方は何事もなかったかのように来ていたのだが、ゲームをしに来ていた訳ではなく別の目的があったようで……まぁ、単純にシマに会いに来ていた訳だ。
なので、ゲームセンターにシマがいないと分かれば他のゲーマー達には目もくれず、さっさと帰っていく。
「○○君(俳優の名前)おる?」
と聞いてから。
彼女さん曰く、シマが俳優の○○に似ているようで、延々と俳優の名前で呼んでいた。
ある日の事、ゲームセンターの中にシマがいる時に彼女がやってきて、いつものように聞いてきた。
「○○君おる?」
どう答えようか?と少しばかり悩む。
○○君というのがシマを指している事は知っていたが、知らない事にしてみようかな?なんて。
「いないんじゃないですか?」
興味なさそうにゲームセンターを見上げた彼女は、そこに目当ての人物でも見付けたのだろう、ガラリと表情を変えて小さく、素早く手を振り、
「○○くぅーん」
そう呼びながら走って行った。
その後ろ姿を少し目で追って、そこでシマと目が合って、なんとなく気まずい気がして逸らした視線の先にサツキの花。
そう言えば、小さい頃蜜を吸ったっけ。
美味しかったっけ?
どんな味だったっけ?
プチンと花を取り、軽く振って虫がいないか確認してみるが、ここはゲームセンターの前で、少し行った先には飲み屋などもある。ここのサツキが清潔ではない事は容易に想像がついたので、蜜を吸う振りをした。
わざわざ蜜を吸う振りをした理由は、何となく彼女が嫌だったから。
「汚いからやめとけ!」
シマは彼女との話を中断させ、俺を怒る為にベンチへと走って来たのだった。




