油断
修学旅行の部屋割りは、クジでも出席番号順でもなんでもなく、好きに5人グループを作ってーとか言う恐怖の一声だった。
それでも俺は難無く部屋きめをこなす事が出来た。その理由は、不登校気味の生徒がギュッと1部屋に固められたお陰。
こうして修学旅行に参加したのは俺ともう1人しかいなかったので、かなり広々と部屋が使え……なかった。
俺以外のもう1人に友達が多かった事で、部屋の中には常に知らない誰かがいたのだ。それともう1つ。
俺は髪が長く、入浴すると髪を乾かすのにドライヤーは必須。なのでドライヤーを持参していた。それを「ドライヤー貸して」と次から次へと長髪生徒が部屋を訪れてくるのだ。
理由は多分、脱衣所に設けられているドライヤーが有料だったからだと思う。
ブオォオオ。
ドライヤーの音と生徒達の雑談で騒がしい部屋の中では落ち着く事は出来ないのだが、悪い事ばかりではなく……
「おかし持ってきたで、皆で食べよ」
と、俺にもお菓子の取り分があった事。そして、
「ドライヤーありがと。ジュース奢るわ」
と、お礼がもらえた事。
「ありがと」
そう言いながら受け取りつつ、脱衣所に備え付けられているドライヤーを使うのと変わらない出費である事には気が付いているのだろうか?とか思ったりした。
修学旅行最終日。
高山病はすっかり良くなり、初心者メニューも普通にこなせるようになっていた俺は、クラスの皆と同じ授業を受けられるまでには上達していた。
スキー授業最後の課題は、中級者用の直線コースを下まで降りる事。
よし、行くか。
軽く気合を入れつつもただの直線コースなので、結構なスピードを出して滑っていた。それだけではなく、空を見上げる余裕まで。
滑りきったらスキーは終わりかぁ、なんか寂しいな……もっと滑りたかっ
ズベシャァ!
「……あれ?」
頭の中では颯爽と滑り降りていく自分が見えると言うのに、目に見えているのは真っ白な雪。そして顔面が痛い。
「大丈夫?急に視界から消えるから、ビックリした」
スグ後ろを滑っていたクラスメートがそんな事を言いながら滑り去っていき、降りた所で俺が転んだ事を言い回っていたらしく、
「顔面からこけたんやって?大丈夫か?」
と、上級者コースを滑っていた筈のカズマにまで心配された。




