レクレーション
修学旅行の1日目には盛大なレクレーションが開かれた。
全生徒参加によるミニゲームや、元は歌手を目指していた教師によるオリジナルソング披露と、音楽好きな生徒によるギター弾き語り。
その生徒は、同じクラスの本橋(仮)と言う、少しばかり顔の濃い男子だった。
歌手を目指していた教師と、本橋は仲が良かったのか、教師が歌を披露しているところへ無断で乱入してもお咎めはなかった。
ギターの腕前は俺が聞く限り「ちゃんと音が出ている」位のもので、ボソボソとそれっぽくバラードなんかを歌っていた。
まぁ、自室でポロローンと弾きながら歌を口ずさんでいる感じ。
そんなバラード色の強い本橋が、ノリノリの曲をかなりの完成度で披露している教師に割って入る訳だ。
同級生同士ならば喧嘩になっているだろう。
それなのに、教師はノリノリのまま笑顔で本橋を舞台の真ん中に促し、1曲を歌いきった後は退場してしまい、舞台の上に残った本橋はそのままボソボソとしたバラードを何曲も披露する。
周囲に居る男子諸君らは遠慮もなくブーイングをしていたが、本橋には全く聞こえていないのだろう、目を閉じながら自分の歌声とギターの音色に酔いしれていた。
そうなってしまうともう何も進まず、大広間では生徒同士による雑談があちらこちらで始まる。
ザワザワしている中で確かに聞こえてくる演奏はまるで、作業用BGM。
「あ、おったおった。これいつまで続くか分からんし、お土産買いに行こうや」
そう言いながら別のクラスからやって来たのはメグ。
勝手に退出しても良いのかは分からないが、このまま広間に居る意味もないように思えた俺は、
「そうやな」
と返事をした。
コソコソと広間を出てお土産屋に行ってみれば、公衆電話前に並ぶ生徒や、休憩室で雑談する生徒が既に何人もいて、むしろ今までレクレーションに参加していた俺達が良い子。みたいな扱いを受けたのだった。
修学旅行2日目のレクレーションは、クラス毎に行われる規模の小さなものだった。
俺達のクラスは夜のゲレンデでの花火大会で、他にも花火大会を予定していたクラスと合同して結構な人数で花火をした。
もちろん平和なもので、打ち上げ花火なんてのは1発も行われていない。
真っ暗な景色が、花火をつけるとパチパチと照らされて白いゲレンデがボンヤリと光る。
まさに幻想的……大人数でなければ。
ワイワイと友達同士で集まって花火をするだけの厳かな雰囲気の花火大会に、突如1つのタイヤチューブが現れた。
活発な生徒達はそれを持って斜面を登り、ソリ遊びを始めた。
最初は1人ずつ、そして2人乗り、3人乗り。
俺も1回滑ってみたいな……なんて思った所でタイヤチューブは1つしかなく、それは活発な生徒で形成されたグループの所持品扱いだったのでどうしようもない。
いいなぁ、と思いながら線香花火に手を伸ばし、パチパチと弾ける火花を眺めていると、
「キャァー!」
異常な悲鳴が聞こえてきた。
これまでにも悲鳴は聞こえてきていたが、それは楽しそうな声だった。しかしその時はホラー映画に登場する人物が幽霊に遭遇した時のような、鬼気迫る声だったのだ。
振り返ってみると、結構な高さから結構なスピードで滑り降りて来るゴムチューブが見えて、そこには3人か4人ほどの生徒が乗っていた。
滑っている先には雪製の壁なんて物もなく、旅館の壁があるだけ。
あのスピードで壁に突っ込んだら、無事では済まないだろう。
「きゃぁー!」
事態を見た女子の何人かも釣られて悲鳴を上げると、一気にその場はパニック一色。
俺はといえば、
「タイヤから飛び降りろー!」
と声を上げる生徒に混ざって「降りろ」コールをする事しか出来ないでいた。
そんな中、猛ダッシュをしてタイヤチューブの前に飛び出して行ったのは体育教師で、タイヤチューブに横からタックルをしてからうつ伏せに寝転んだ。
こうして寝転んだ体育教師の体に乗りあがったタイヤチューブは減速し、生徒達はタイヤチューブから飛び降りて雪の上を転がり、体育教師によりこっ酷く怒られたのだった。




