約束
修学旅行はスキーで、1週間ばかしの長旅行だった。
クラス1人1人にスキーの経験があるのかどうかのアンケートもあり、上級者から初心者までのグループ分けもされた。
カズマはこれまでに何度もスキー経験があったので上級者グループとなり、俺はスキー初体験だったので初心者。
「向こう着いたらどんなんか分からんけど、教えれそうなら教えたるわな!」
と言っていたのだが、スキー場に着くや否や高山病にかかった俺は初心者メニューすらこなせず、2日目からお子様メニューでの個別指導を受ける所から始めさせられた。
救いは俺1人という訳でもなくて、他にも数名いた事。
斜面を横歩きで登っていく。という練習をしていた時、同じく斜面を横歩きしている女子が目に入って、何故だか視線が外せなくなった。
何処かで見た事がある気がしたのだ。
何処だっけ?
誰だっけ?
そうだ、幼稚園の時に同級生だった、長い机を運んでいた心優しき女子(「長机運び」参照)だ!
「うわぁ!久しぶり。覚えてる?」
思わず声をかけた俺に、ニコリと笑顔を返して小さく頷いた女子は、
「1年の時から気付いてた」
と。
小学校、中学校と別の学校に通っていたにも関わらず、高校生になった俺を認識してくれていたとは!
「そうなん?声かけてくれたら良かったのに」
サクサクと斜面を横歩きで登ると、女子もサクサクと登るスピードを上げるから、会話は終了したのに並走。
しかしここはナチュラルなボッチ同士、居心地の悪さは全くなく、時々目が合ってはニコリと笑い合うだけの時間が続いた。
スキー授業が終わって自由時間。
旅館に入ってすぐ右側はスキー靴を置く下足室で、左側にはお土産店。正面には広い休憩室?になっていて。お土産店の横には何台かの公衆電話があった。
休憩室のイスは活発的な生徒達が集まっての談笑が始められていたので、俺は公衆電話の横に立って修学旅行に参加したメグを待っていた。
「お待たせー。ちょっと先に電話してえぇ?」
何故か携帯電話は使用禁止だったので、公衆電話には少しばかりの列が出来るほどの盛況ぶり。お土産屋で売られているテレフォンカードもドンドン売れていた。
家の人に電話をかけて「おやすみ」とか言う高校生は珍しいだろうから、この時に電話をしていた生徒達は、恋人との語らいをしていたのだと思う。
メグも例外ではなく、電話の相手はキバーさんで、修学旅行が終わったら迎えに来てくれる事になった。と。
修学旅行の帰りは、学校近くの公園前でバスは止まり、そこで解散となる。早朝の6時に。
なんとなく、来ないんだろうな。なんて失礼な事を思った俺は、またなんとなく電話をかけてみた。
「もしもし、シマ?○○公園って知ってる?」
「急にどした?公園は知ってるで」
「日曜の早朝6時にバスがその公園に到着して、それで修学旅行終わるねん」
「分かった。起きれたら行くわな」
「んー。期待しとく。おやすみー」
「おやすみー」
電話を切った後なんとなく、起きれないだろうな。なんて思った。




