お見合い花火
ゲームセンターのベンチには、何人かの女子も来ていた。
男子の人数に対して女子の人数は少な過ぎたので、まぁ大抵の女子はモテていた。
しかし、女子にも当然好みがあるので、カップル成立率はかなり低かったと思う。その理由は、女子の好みがハッキリと偏っていたせいで、選ばれた男子が皆学校やらバイト先やらで恋人がいたせい。
男子でモテていたのはキラやシマ、クモさんとかタイさんで、渦中にはいない俺はノンビリとベンチに座っている事は……出来なかった訳なのだが。
モテていたシマ。そのシマと仲の良い俺なのだから、どうしても巻き込まれるのだ。
「ファストフード店行くから、シマ君誘ってきて」
とか女子達に頼まれ、それを毎回シマに伝えに行く。それだけならまだしも、俺も一緒に行くと思っているシマと、俺は来ないと思っている女子達の意見の食い違いと言うのか、何と言うのか。
そんな訳で、どうしたものかとクモさんに相談を持ちかけた。
「木場とシマ君と俺、シマ君を狙ってる女子Aさんと、その友達Bさん入れて花火しよっか」
細かい作戦も決め、その日の夜には花火大会作戦を実行に移した。
ゲームセンターにシマと、AさんとBさんがやって来て、1時間後程で声をかけて5人で公園に移動。
放っておくとシマは俺やクモさんと喋るので、俺とクモさんは業とゆっくりめに歩いて3人から遅れつつ、最後の打ち合わせを小声で行う。すると気を使ったシマは2人の女子と喋り始めるのだ。
公園に着いたら2袋用意した花火を鞄から出し、花火大会スタート。
5人でワイワイと花火をしていたらアッと言う間に終わってしまうので、素早く次の作戦に移る。
クモさんがBさんの隣に行き、作戦の一部を教えて協力してもらう。というもの。
こうして3対2に分かれた後は、シマとAさんだけを残して退場するだけなのだが、肝心の退場方法を細かく決めていなかった為、花火大会は線香花火を残すのみという所まで進んでしまった。
クモさんもBさんも“どうする?”みたいな顔をしているばかり。
本当にどうしよう?どうすれば違和感なく退場できる?
俺は線香花火の入っていた袋を手にすると、そのままライターに火を灯し、袋ごと燃やす振りをした。
「ぅあっつぅ!」
よし、火傷をした振りが出来たのだから公園内のトイレまで移動出来る。トイレは道路に面した場所にあるから、そのまま退場だ!
「なにしてんねん!」
しかし、あろう事かクモさんよりも先にシマが反応してしまったから慌てた。
「大丈夫大丈夫!まだ花火残ってるんやし、やっときや。俺冷やしてくるわ」
「着いてくわ。丁度トイレ行きたかったし」
「あ、私もー」
よし、よし!
これで後は3人で退場すれば……
「えぇから早ぅ冷やせ!」
俺の腕を掴み、かなり近くにあった水飲み場まで引っ張るのはシマ。
「あー……戻ってえぇよ。しばらく冷やしとくから」
「いや、あの2人えぇ雰囲気やし、しばらく2人にしといたろかなって」
と、シマは小声で言いながらクモさんとBさんの方を指差している。
確かに、言われて見れば良い雰囲気に見える。しかし、このままだとAさんが1人になってしまう。
「じゃあAさんをこっちに呼ばなアカンやん」
あ、そっか。そんな事を言ったシマはAさんに向かって手招きをして、Aさんは嬉しそうに駆け寄ってきた。
ここは2対2にしてさっさと退場するのが吉だと察した俺は、
「家帰って冷やすわ」
と、痛そうに手を押さえながら帰宅したのだが、ゲームセンターにおけるカップル成功率の上昇には繋がらなかった。




