余計な一手間
選択授業で選んだのは美術だった。
無断欠席の多かった俺は、毎度毎度遅れて作業を開始させる事になるのだが、周りは皆友達と喋りながら作業をしているので恐ろしいまでのスローペース。
ある時の課題は粘土彫刻で、俺が作業を始める時皆は粘土の形を整える作業をしていた。
まずは何を作るのかを考えなければならないが、それは「自分の手」とのお題があったので悩まずに済んだ。だから後はどんな表情の手にするのか、だ。
流石に彫刻となると時間がかかると思った俺は、簡単そうだとの理由で握り拳にする事にした。
芯を作り、粘土をつけ、大まかな形を作り、そこからバランスを見ながら形を整えていく。
黙々とした作業は楽しく、ついつい夢中になり過ぎてしまい、気が付けば皆と変わらない作業をしていた。
そして終に完成間際まで仕上げて、不意に仕上げてしまった後の事を考えた。
物凄く暇になるんじゃないか?作業を終えた後、準備室の掃除とか頼まれるかも?
実際に絵の整理を手伝わされた生徒がいたので、ありえない話ではない。
なんとしてでも作業を長引かせなければ……。
こうして俺は出来上がりかけていた握り拳に少しばかりの個性を出そうと試みたのだった。
1度出来上がっているものを崩すのは結構大変だったが、皆と同じくらいに完成させる事が出来た。
その名も、小指を骨折した握り拳。だ。
しかし美術教師には不評で「小指の形が未完成」としてB-が付けられた。




