衣装係り
無断欠席を数日して登校した時、文化祭の準備期間に入っていた。
俺のクラスは演劇で、演目はピノキオ。そして俺の担当は衣装係で、猫と狐の衣装を担当する事と決まっていた。
猫の役にはカズマが選ばれていて、俺を衣装係りに推薦したのもカズマ。そして言うのだ、
「俺の衣装ちゃんと作ってやー」
ちゃんと作って欲しいのなら、毎日ちゃんと登校している人に頼めば良いだろ。とはいえ、家庭科室で黙々と作業をするのは楽しかったのだが……。
どんな衣装にしようか?と始めに考えたのは猫と狐の色。
こうして1日目は机に伏した状態のまま、猫は黒、狐はオレンジにしよう。と決めただけで終わった。
2日目になってようやく衣装の形を考案する。
着ぐるみのような物が望ましいのだろうが、そんな予算も時間も技術もない。だったらどうする?
耳と尻尾を着けるだけでも猫や狐に見えそうだな。
猫はしなやかな長い尻尾が良いから、細長く切った布2枚を縫い合わせて中に綿と針金を入れて尻尾に動きを出そう。狐は太くて目立つ尻尾が良いから、ひし形に形作った針金を2本入れたらボリュームが出せるだろう。
耳は適当に三角に切って綿をつめたものをカチューシャに付けたら出来そうだ。
待てよ?折角尻尾と耳をつけるんなら、手先が人間のままなのは少々惜しい気がする。だったらひじ辺りまである手袋のような物を作って肌色を隠した方が良いかも知れないな。じゃあ膝下辺りまでを隠す靴下のような物も必要か。
ここまで決めてからやっと、黒とオレンジの布と、綿と、針金と、カチューシャを2本と、シリコンコーキングとガンを仕入れた。
初めに取り掛かったのは最も重要な尻尾。布を切り出してミシンで縫い、中に綿をつめて針金を入れる。想像していた通りに出来たのだが、針金が細過ぎたのかそれとも綿をつめ過ぎたせいなのか、思ったよりも尻尾の表現は出せない代物になってしまった。
次に膝下までの靴下のような物に取り掛かろうとした時、隣に居た魔法使いの衣装を作っていた女子から、靴下のような物で良いなら靴下で良いのではないか?との助言を貰った。
確かに、とも思ったが正規の靴下ではあの足先のモコッとした感じがない。手足の先を少々大きめに作りたい!と熱弁して取り掛かった靴下のような物と、手袋のような物は、結構普通の靴下と手袋に仕上がり……。
最後は、余った布と余った綿と余った針金を使っての耳。余り物を寄せ集めて結構適当に作成したにも関わらず、出来は1番良かった。
こうして本番を迎えてみると、狐のオレンジは中々舞台栄えしていたのに対し、黒猫は背景の黒と同化して、良く見えない代物となっていた。




