なんとなく ※
バイトが終わり、店を出た所で思いがけない人物達を目撃する事になった。
他人の空似を疑ったが、母と姉のそっくりさんが一緒にいるなんて有り得ない。
「ちょっとおいで」
そう言って店の前から連れて来られたのは、店から少し離れた場所にある駐車場の前。
とりあえず自分からは何も言わずに2人の様子を見る事に。
ゲームセンター前のベンチで夜中騒いでいる事がバレたか?
姉がピアスを病院で1箇所空けただけで親父だけではなく母も激怒していたし、左右の耳たぶ合わせて5つの穴が開いている俺をわざわざ怒りにきたとか?
テストの成績が赤点まみれだった事を罵りに来た?
成績悪化の為、バイトをやめろと言いに来たとか?
「……」
突然バイト先訪問される理由があり過ぎた為に後ろめたさを感じた俺は、俯いて母か姉の言葉を待った。
「お前、学校無断欠席してるそうやな!」
勢い良く怒られたというのに、俺の頭の中は「なんだ、そんな事か」と安心して、思わず顔が上がった。
「何で休んでんねん」
と、今度は姉が母に比べると随分と穏やかに尋ねてくるのだが、明確にコレダという理由は特にない。それなのに休んでいるのは単純にダルイから。しかし、それをそのまま説明すれば救いようのない問題児扱いされてしまうだろう。だったらそれらしくて人間らしい答えを用意しなければならない。
考えを巡らせて浮かんだのは、ゲームセンター仲間が言っていた言葉で、それをそのまま声に出した。
「1年で出来た友達が全員辞めたから、学校行き辛いねん」
発音しておきながら頭の中では「1年で出来た友達なんかメグしかいねーわ。そのメグも無事に2年だわ。欠席してるけどな!」と、大笑いだ。
そんな俺に母と姉は同情的な表情を向けてきて、友達がいないのは辛いだろうけど……とかなんとか説得してくる。
初めは、はいはい。と適当に聞いていたのだが、メグに対して散々「高校は卒業しなアカン」とか偉そうな事を言っておきながら、自分も無断欠席している事への矛盾に嫌気がさして来て、自分が如何に考えのない人間なのかと言う事が分かってきた。そうなるともう情けないやらなんやらで自己否定が止まらなくなり、最終的な考えに行き着いた。
母と姉を見送り、その足で小学校の頃に1度人生を終わらせようとした歩道橋へと向かった。
母達が電車に乗った駅からは2駅も離れている場所だ。
時間は夜中だったので、洗濯を取り込んでいる人も、日光浴をしている人もおらず、誰の目もない。
階段を上り、特に何も考えずにボンヤリ走る車を見下ろしていると、歩道橋を上がってくる足音が聞こえてきた。
誰か来たのか。
そう何気なく顔を向けた先にいたのは、特に息を切らせている訳でもない母。
え?
何でここが分かった?
いやいや、何でここにいる?
「なにやってんの」
怒る訳でも、諭している訳でもない無表情で尋ねられ、何故か誤魔化す事も出来ずに答えた。
「飛び降りようかと思って」
バシィーン!
言い終わるや否やの激しいビンタ。
「何でここが分かったん?」
「なんとなくや!」
「なんとなく!?」
「アホな事言うてんと学校行け!」
「え?あ、はい」
翌日、なんとなく俺は学校に行っていた。




