足りないものは
小学校、中学校と、俺と弟の仲はそこそこ良かった。
しかし、俺が高校に入りゲーセンでたむろし始めると、弟は俺をゴミか虫を見るような目で見ていた。
非行なんて言葉とは無縁で、成績も良い優等生の弟からしてみれば、夜中中遊び回っている俺を同じ人間とは思いたくなかったのだと思う。
実際「ほぼ他人」と言われた事があるほど。
そんな弟が言っていた「俺達には何か足りない」に心底納得してしまった出来事が起きたのは高校2年の、確か春の事。
詳しく覚えていない時点で俺は人間として足りないのだろう。
その日、朝早くに電話が鳴った。1コール、2コール、俺と弟は電話の近くにいるが、出ようとはしないので慌ててトイレから出てきた親父が電話を取った。
「えぇ!?」
驚いている様子の親父は2階に駆け上がり、貴重品をまとめて入れている鞄を持って下りてきた。
どうしたのか?疑問には思ったがそれを口に出す事もせず、朝食のコーヒーを口に運ぶ。弟も全く興味がないのだろう、肘を付きながらダルそうにパンを食べていた。
そんな俺達に親父は言う。
「お母さんが通勤中にこけて怪我したんやって!」
それを聞いた瞬間、俺は思った。
なんだ向こうの事か、関係ないわ。
そして弟は涼しげな一重の瞳で親父を見ながら、
「ふーん。で?」
と。
「なんぼか貸して欲しいんて」
俺達に相談もなく、親父は無条件でいくらかを持って行くつもりだったらしい。
「なんで?」
仲の悪い筈の俺と弟の意見が綺麗に一致し、母とは仲が良くなかった筈の祖母が俺達を何処か軽蔑したような目で見ていた。
「そんな義理ないやん」
「離婚したんやから他人やん」
俺達は朝食を続けたまま淡々と続けた。声を荒げる事も、親父を諭そうとしている訳でもなく、お互い同意を求めようともせず、ただただ独り言のように。
何故なら、俺達は知っているのだ。何をどう言おうとも親父には無駄である事も、俺達が愛情に乏しい人間である事も。




