目撃
ゲームセンターに行くようになり、知り合いが増え、バカ騒ぎするような毎日を送っていると、まるで自分が強くなったかのような錯覚を起こす。
何か人道から外れた事をしたとしても、多くの仲間が楽しそうに笑うので、それは人道から外れた事ではなく、単なる遊びの一環だと思うようになる。
そんな事をボンヤリ思いながら、俺をいじめてきた人間達も、こんな気分だったのだろうか……と、そう考えるようになった。
そしてその日、ゲームセンターの近くにあるレンタルショップに入っていく元いじめっ子を見かけ、思わずレンタルショップに入った。
報復する機会があるかも知れない!
ソワソワしながら店内をウロウロしていると、そいつはCDを物色しながらキョロキョロし、手に持っていたCD数枚をかばんに入れた。
相変わらず、人道から外れてるなぁ。
なんだか一気に熱が冷めた俺は、今度はタイミングを計りながら台詞を考える。
5枚程のCDをカバンに隠し入れたソイツは、無駄に店内を大きく一周しながら店員の動きをキョロキョロと見て、一気に加速してそのまま店を出ようとした。
出入り口の両脇には万引き防止の警報機が設置されているが、ソイツは多分何度も万引きをした事があったのだろう、足取りに一切の迷いがない。
よし、今だ!
俺はそいつの後ろから近付いて、小声で考え抜いた台詞を告げた。
「○○(フルネーム)久しぶり。万引き楽しい?」
本当は大声で言うつもりで、更には「店員さん、この人万引きしてますよ」と続ける予定だったのだが、多少気が大きくなっていたからとはいっても元々が極小なのでこれが限度だった。
しかし、今になって思うのだ。
報復するつもりだったのなら、本人に言って羞恥心を煽るより、こっそりと店員さんに万引犯の存在を伝えるだけで良かったんじゃないだろうか……。
捕まって店員さんに連れて行かれる姿を指差しながら笑ってやるだけで良かったんじゃないか……。
と。




