漢字
後少しで小学校入学という時、姉が友達を連れて来た。
一緒に宿題をしようと言う事になったらしいのだが、祖母は家に人を入れる事を極度に嫌がり、玄関先で少しの間言い争いが続いていた。
「部屋が汚いってより、こんな喧嘩を見られる方が恥ずかしいわ」
祖母に向かって放たれた母の一言により姉は見事友達を家に招きいれる事に成功し、2階で宿題を始めた。
その時にやっていたのは漢字ドリル。
5歳上の姉が書いている文字が完全に読めない俺は、そんな難解な文字をすらすらと書いている姉とその友達を尊敬し、もはや四角にしか見えない画数の漢字を眺めながらなんて読むのだろうかと思考を巡らせていた。その漢字の横にはひらがなで振り仮名が振られているのだが、それすら読めない程俺は少々難有りな子供だった。
「お前邪魔すんなよ」
と、姉に先手を打たれていた俺は持っていた色鉛筆と落書き帳を姉の友達に差し出してこう言った。
「何でも良いから漢字書いて」
姉の友達は優しげな笑顔で俺を見ると、
「一緒に勉強すんの?賢いなぁ」
と、色鉛筆の中からピンク色を選び、少し大きめに落書き帳に書いてくれた。
ひらがなで「かんじ」と。




