通り魔
夜の帰り道、俺は1人で自転車で家に向かっていた。
少し狭い道をしばらく直進すると後ろから原付バイクが近付いてくる音が聞こえてきた。当時の知り合いは無免許だろうがなんだろうが、とりあえず全員原付に乗っていた。だから完全に知り合いだと思い、自転車をこぐスピードを落とした。
しかし、何時まで経っても後ろをピタリと付いてくるだけで話しかけて来ない。
知り合いじゃない?
じゃあ何故付いてくる?
もしかしたら驚かせようとしているのだろうか?
こうして知り合いだという考えが変わらないまま、外灯の少ない道に入る。
薄暗い道幅はかなり狭いので、当然バイクは進入禁止だったのだが、そんな事もお構いなく付いて来る原付バイク。
早く話しかけてくれば良いのに、と後ろを振り返った瞬間、原付バイクが急に加速し、凄い勢いで走り去っていった。
しっかりと、ワッシャワシャと俺のケツをもんで。
なんだったんだ?
そう特に気にせず自転車を走らせていると、今度は正面から原付バイクがやって来た。さっきの奴だろうか?と目を細めるが、ライトが眩しくて良く見えない。
全く減速もなく突っ込んで来る原付バイク。
嫌な予感がして急停車し道の端に寄ったのだが、バイクはそれでも俺を目掛けて真正面からやって来る。
確実に狙ってきている。
生身でいるより、自転車に跨ったままの方がタイヤもあるし安全だろうか?
そんな事を軽く考えていると、クイッとハンドルを切ったバイク。そして左顔面に感じる衝撃。良くは見えなかったが、ミラーが当たったのだろうと思う。
とりあえず鼻血が物凄かったので、上着を脱いで鼻にあててその場に座りこんでいると、今度は知り合いの乗った原付バイクがやって来た。
「なにやってん?」
上着を脱いでにおいを嗅いでいるとでも思ったのだろうか、ソイツは笑顔で近付いてきて、少しして目を見開いた。
「どうしたん!?」
どうしたのかと聞かれたら、きっと通り魔に襲われた事にはなるのだろう。しかし残念な事に相手の顔も見ていないし、ナンバープレートも覚えていない。ここで騒いだって犯人なんか捕まらないんだろうし、幸いな事に痛いのは左顔面だけだ。それも骨が折れているような激しい痛みではない。ミラーをぶつけられたのだから数日は腫れるだろうが、大した事じゃない。
「こけただけ」
心配をさせまいと付いた嘘だったわけだが、俺はその後「しっかり前を見て運転しろ」と結構な時間怒られてしまったのだった。
そんな事があってからというもの、俺は後ろから近付いて来る奴は全員通り魔だと思って生活している。




