酔わない理由
ゲームセンター前にはベンチが全部で4基あって、その時も俺以外に何人が座っていた。中にはプリクラを撮りに来たであろう制服姿のままの女子高生も。
そうなると当然皆が女子高生に近いベンチに移動して行くのだが、2人の変わり者が俺の所へやって来た。
西(仮名)さんと羽田(仮名)さんという成人を超えた大人だ。
なにしてんの?と西さんが言えば、腹減ってへん?と羽田さんが言う。
カラオケ行こうやと西さんが言えば、中でゲームしようと羽田さんが言う。
言いたい事をまとめてから来ていただけると本当に有難かったのだが、この2人が友達だという訳ではないので、俺が西さんを選ぶと羽田さんは何処かへ行ってしまうし、その逆もまた然り。
3人で行こうと誘っても来ない徹底振りから、もしかしたら仲は悪かったのかも知れない。
そして、その日も2人は俺の所にやって来た。
西さんはレンタルショップに行こうと言い、羽田さんは、
「喉渇いてへん?」
と聞いてきた。
「乾きました」
こうして連れて来られたのは、まるでバーかと思うほど沢山のアルコールが置かれている羽田さんの友人宅だった。
カウンター席みたいなお洒落なテーブルの奥には、沢山の瓶が並んだ棚。
羽田さんは友人に次々とカクテルを注文し、それらを飲まされた。
未成年にガンガン酒を飲ませる行為はどうなのだろうか?と思うが、だいぶん年上なので従うしかない。
「あれ?全然酔ってへん?」
俺と同じペースでカクテルを飲んでいた羽田さんの顔は赤くなってくるが、俺は何杯飲んでも素面だった。
その理由は、羽田さんが酒に弱い訳でも、そして俺が酒に強い訳でもなく、俺に出す方のアルコール度数を出来るだけ低くしてくれている羽田さんの友人の優しさだ。
「おいー、もっと濃い目に作れやぁ~」
友人に文句を言っている羽田さんの呂律は回っていなかった。




