グランドネット
小学校で運動会が行われる日、俺は母と一緒に小学校に来ていた。
プログラムに沿って進んでいく運動会。
出番を控える姉は闘志を燃やし、その勇姿をカメラに収めようと母も奮起しているが、そんな事など全く関係のない俺は、非常に暇な時間を過ごしていた。
グランドの隅っこで砂をかき集めて小さな山を作ったり、枝で絵を描いたり。
そうして自分なりに遊んでいると、視界の中に足が入ってきた。
人見知りが激しいので、顔を上げずに1人遊びを続けるしかない。すると足の持ち主は俺の背後に移動する。
何をされる訳でもなく、ただ感じる視線。
あまりにも居心地が悪いので、思い切って振り返ってみると、俺よりも少しだけ年上そうな子供が1人、破れたグランドネットに足を引っ掛け、器用に座っていた。
男子なのか女子なのかは分からなかったが、非常にニコニコとしている子供。
何故だろう、俺もグランドネットに座りたいと思った。
近付いて行くと子供はスッとグランドネットから降り、また俺の背後に立った。またどうしてなのか、無言だと言うのに「座ってみ」と言われてる気がして、破れたネットに足を引っ掛け……。
ボトッ。
落ちた。
尻餅ついてズボンについた砂を払うと、子供は俺の目の前でネットに座って見せ、そしてスグに降りる。
それから数回落ちはしたが、何とか座れるようになると、ネットをよじ登り始める子供。見上げていると見下ろされ、少しだけ見つめ合う。
また、聞こえた気がする「おいで」。
俺は「絶対無理」と首を振る。それでも「簡単やから」と誘われ、少し登ってみようと思ったのだが、何をどうしても座っているネットから足が抜けない。
ボトッ。
尻餅をつくが、足がネットに絡まって取れない。
「とれへん」
自分の力ではどうしようもないと感じて声に出すと、
「あんた何やってんの!」
と、母が怒りながらネットを解いてくれた。
これでやっと開放された、そう安堵しながら見上げたネットの上には、もう誰もいなかった。




