差し入れ
家にいる時は自室に篭る事の多かった俺は、次第に家族と会話する事もなくなり、家でも、学校でも一言も喋らないと言う日が普通にあった。
祖母はそんな俺の部屋のドアを時々ノックしてきた。
コンコン、ではなく、ゴンゴン、という激しい音だ。
寝ていてもその音で起きる程凄まじい。それでも無視をしていると、
ゴンゴン、ガチャガチャ。
完全にドアを開けようとしてくる。
「オイ!寝てんのか?オイ!」
寝てると思うんなら静かにしろ!と、少々イラつきながらドアを開ける。
「なに?」
「寝てたんか?」
「ん」
「そっか」
パタン。
用事は何もないのだ。
しかし、差し入れがある時もある。
ある時はポテチ、またある時はフライドポテト。
そして1度だけケーキだった事があった。
家のご近所にはケーキ屋さんがあり、そこそこの高級品なので特別な時にしか買わないのだが、その日の差し入れはそのケーキ屋さんのイチゴショートだった。
ケーキ箱の中にはイチゴショートが2個入っていたので、俺は自分の分だけ皿に取り、
「どうも」
と、自室に戻ったのだった。
今になって思う。
もしかしたら祖母は一緒に食べたかったのかも知れない。と。




