赤谷のルルル
2年の頃から不登校だった赤谷は、当然と言えば当然なのだが、俺よりも勉強が出来なかった。
後ろから数えて1位と2位ではあるのだが。
なのでほぼ全ての授業は赤谷にとっては昼寝の時間だったり、無駄話に花を咲かせる時間だったりする。
教師達は再び赤谷が登校して来なくなる事を避けているのか、注意をしない教師も何人かいて、全く手加減なく注意してくる教師も、また何人か。
それは生徒にも言える事だった。
赤谷の想い人は、その注意をしてくるタイプの生徒で、既に恋人がいた。で、その恋人というのがタムなのだ。
好きな人を言わせた手前、赤谷の恋の応援はしたいが、全力で応援する事も出来ない状況。
とは言え、赤谷自身も意中の相手に恋人がいる事は知っていたし、見ているだけで良いとも明言していたので、それで学校に来るようになっているのだからこのままで良い。なんて特に重大な事とも考えていなかった。
しかし、俺は少しばかりの違和感を覚えていた。
好きな人を見る為だけに学校に来ている。と言っていた赤谷だが、A組の教室から出ないのだ。
意中の相手は別のクラス、見る為にはA組から出て廊下を歩いて行かなければならないというのに、教室を出るのはトイレに行く時のみ。それ以外は教室内でクラスメートと楽しげに喋っている。
好きな人、見れてないんじゃないか?
不思議に思ったので、疑問に思った事をそのまま尋ねた。
「ルルル見れてる?」
ルルルと言うのは、赤谷が好きな人の事をそう呼ぶので、真似をした。
「見れてるで?今日もめっちゃ可愛いし!」
見れているらしい。
少なくとも学校内では見れてない筈だから、登下校の時に見かけるのだろうか?だとしたら常にタムと一緒にいる姿を目撃している事になるんじゃないか?
それで良いのか?
少しでも2人きりで喋るとか、そういった何か切欠が作れないものだろうか……。
ルルルは赤谷に対して直接注意をしてくる生徒の1人。
そこで俺は赤谷を注意させよう作戦を企てた。
特に悪い事をしようって訳ではなくて、ルルルが居そうな場所に出向いて鬼ごっこを始めてみようというものだ。
廊下を走るな、なんて漫画みたいな注意をしてくれるかどうかは分からないので多少派手にする必要がある。
「赤谷鬼な。俺を捕まえられたら昼飯奢るわ」
と、昼休みに大混雑している食堂の前で提案した。
「え!?」
「3秒数えてから追いかけてきて。制限時間は5分やで!」
「え!?待って待って、なんて?」
「つかまえてごらーん」
こうして食堂内に駆け込む。混雑しているのでお目当ての人物を探すのは至難の業ではあるが、いる場所の特定は出来ているので問題はない。
ルルルは、いつも決まった席でお昼を食べているヒロやヨネゾー、タムの見える場所に座っていた。
今日のルルルが弁当持参でなければ、そこにいる筈だ。
「食堂内で走んなや!」
怒られている赤谷と、怒っているルルル。思惑は見事に成功した。
のだが、赤谷は鬱陶しそうな表情をしていて、少しも嬉しそうではない。それ所かキョロキョロと周囲を見渡して俺を見付けるなりルルルの話の途中から走り出し。
「デーン。5分内やで!」
と、嬉しそうに。
それで俺はまた違和感を覚えた。と言うよりも確信した。
「好きな人、ルルルちゃうんかーい」
「ちゃうわーい」
赤谷は物凄い笑顔だった。
「もー誰なん?」
「実はタムの方が好きやねん」
と、タムの方に悩ましげな視線を送るが、口元は笑っている。
「で、ホンマは?」
「お前だー!」
怪談のオチか?
「で、ホンマは?」
「英語教師」
と、嫌そうな顔。
「で、ホンマは?」
「よっし決めた。オムライス頼むわ」
結局、本当に好きな人が誰だったのかは教えてくれなかったのでした。




