失敗
食堂に行くと、極まれに全員集合する事があった。
全員とは、ヒロとタムにヨネゾーとマッちゃん、そして俺とカズマの6人。
ヨネゾーは白々しくタムにも話しかけ、昔と全く変わらない様子でヒロにもじゃれたりする。そうするとヒロも昔みたいに楽しそうに笑った。そしてその様子を微笑みながら眺めるマッちゃんと、少し距離をとって他人を装うカズマ。
そんな中俺は早々に席について弁当を広げる。そうするとカズマも座って食べ始め、ヨネゾーも、マッちゃんも俺の近くに座って食べ始める。そしてタムとヒロも。
遠くから見れば、仲良く食べている6人組にでも見えただろう。
何故ヨネゾーは一緒にいたくないとまで思える相手に対して笑顔で喋る事が出来るんだろう?
何故疎遠になった人間に対して友達だった頃と全く変わらない態度で接する事が出来るんだろう?
俺には、無理だった。
この頃になると、最早「ヒロ」「タム」と呼びかける事もおこがましく感じてしまい、喋りかける事すら出来なくなっていた。
喋れる相手はヨネゾーかカズマだけ。とは言っても、ヨネゾーに対して「ヨネゾー」と呼びかける事にも気がひけてしまい、ここへ来ての人見知り発動。
今年卒業だというのに、これじゃあ駄目だ。
このまま卒業したら駄目だ。
漠然とそう思った俺は、タムとヒロ、ヨネゾーに手紙を書いた。
内容は細かくは覚えていないが、ヨネゾーとヒロに対しては、1年の頃にこんな事したねー。こんな事があったねー。みたいな思い出話を書いた。タムへの手紙にはイジメられていた事を蒸し返し“嫌だった”事を始めて本人に訴えた。
しかしここでいくつか大きな失敗を犯してしまうのだ。
タムへの手紙だけ英文にしてしまった上に、内容を知れば差出人が俺である事が分かる。として差出人の名前をあえて書かなかった事。
英語の点数が限りなく0の俺が恨み節を英文で書ける筈もないので、こんな感じの文章を英語で書いたらどうなる?みたいな事をヨネゾーに聞きながら作成した事。
そして、ヨネゾーはどんな経緯からこの文面になったかの理由を知っている筈で、どんな思いで文面を書いたのかも分かってくれている筈……だなんて、思い上がった事。
手紙を夫々の机の中に仕込んだ数日後の英語の授業開始前、英語教師が明らかに俺が書いた英文の手紙を手にしていた。
「これを書いたのは誰ですか!?」
非常に怒りながら。
手紙を1人1人に回し、最後に誰が書いたのか?ともう1度。
英語教師が手紙を持っている理由はタムが解読を頼んだからと容易に想像は出来たが、手紙を読んだ筈の英語教師が何故手紙の差出人に対して怒っているのかが分からないので、俺は黙っていた。
結局誰も何も言わないまま授業は終わった。
その日の放課後、俺は生徒指導の体育教師に呼び出された。
指導室の中には英語教師もいて、机の上には俺が書いた手紙が置かれている。何故ばれたんだろう?と不思議に思っていると、生徒指導の先生が物凄い情報をサラッとくれた。
英語の授業が終わった直後、ヨネゾーが「それ木場やで」と英語教師に言ったのだとか。
素直に犯人を教えたヨネゾーは大層褒められたそうな。
「何でこんなん書くん!?恨むとか、幸せになるなとか」
英語教師はヒステリックに手紙を揺らしながら甲高い声で怒り出したのだが……そんな言葉、俺は知らない。
「木場、謝れ」
いやいや、謝って欲しいのは寧ろ俺の方なんだけど……英文の手紙にすると思い付いた俺が悪いのだろう。
だからって、全面的に俺だけが悪者で良いのか?
納得がいかなかった俺は、ここでまた選択を誤る。
「心の整理がついたら、謝ります」
と、謝罪を先延ばしにしたのだ。
そうするとタムにも、ヒロにも手紙の送り主が俺である事が伝わり、友達に怪文書を送りつける可笑しな奴。との認識をされてしまったのだ。更には、中々謝ろうとしない俺に英語教師も苛立ったのだろう、授業中に堂々と「謝りなさい」とか言い出した。
本格的に可笑しな奴認定を受けてしまった俺にカズマも近付きがたくなったのか、学校内では話しかけても無視されるようになり、同じくヨネゾーも。
唯一赤谷だけが、
「なんか大変そうやけど、卒業まで頑張ろな」
と言ってくれた。




