逃走
ゲームセンターで遊んだ後、帰ろうとした所でシマ君さんに呼び止められた。
なんだろうかと立ち止まって事情を聞いてみれば、誰から聞いたのか俺が麻雀牌を持っている事を知っていた。そして、一緒にしよう。と。
この時の時刻は軽く10時を過ぎていたので、いくら自室だとはいえ麻雀をジャラジャラすれば親父にキレられる。
そう思ったので、
「俺の家無理ですよ」
と、先にちゃんと伝えた筈なのだが……
「お邪魔しまーす」
物凄い小声で言いながら部屋に入ってきたシマ君さん。
無理矢理押し入られたのではなく、招待した。その理由は麻雀を教えてくれると言われたからで、2人打ちのつもりだったらしく、他に人がいなかった事。
しかし木場家には、人を家に招いてはならない。という、守らなければならない決まりがある。
決めたのは祖母で、ガタのきている家を人に見られるのは恥。とかなんとか言っていたが、多分俺と同じで家の中に他人がいると落ち着かなかったのだろうと思う。
なので、人を招きいれた事がばれないよう常に小声で喋る事と、靴は部屋に持ち込む事、物音は立てない事をシマ君さんに強要した。
部屋に入ってくるなりキョロキョロと見回すシマ君さんは、
「もっと片付いてるイメージやったわー」
と、結構失礼な事をしっかりと小声で言う。
ゴミが散乱しているとか、服をタンスに入れずにその辺に置いているとか、そういう散らかり方ではなくて、スグに使う物をいちいち仕舞わないだけ。
絵を描き始めたら絵が出来上がるまでは絵の具やら鉛筆やらは床に転がったままにしていた。もちろん、描きあがれば仕舞うし、スグに使うからと言ってドライヤーとか爪きりが転がっている訳ではない。あくまでも途中の物を途中のまま置いてあるだけだから、俺からしてみれば少しも散らかってはいない。
とかなんとか理由をつけた所で、座る場所もないほどだったので返す言葉もなかった。
こうしてベッドの上に2人座って麻雀の役を教えてもらい、何面待ちでしょうーか?というテストを出されたりした。
麻雀の家庭教師とでも言うのか、それからも数回シマ君さんは俺の部屋にやってきたのだが、ある時祖母にバレてしまった。
それはシマ君さんがトイレに行っている時で、丁度祖母と鉢合わせてしまったのだ。
「コンバンハー」
小声で挨拶して部屋に戻って来たシマ君さんだったが、トイレから出てきた祖母はダイニングに居座り、タバコを吸いながら聞こえるか聞こえないかの絶妙な声音で延々とブツブツ文句を言い出す。
しかし祖母はブツブツと文句を延々と言って来るだけなので、無視しようと思えば出来るのだが……親父だと話は全く違った。
その日もシマ君さんを部屋に招こうと玄関を開けた所で、親父が外から帰ってきた。
この頃の親父は色々キツかったので、顔を合わせてしまっただけで俺は萎縮してしまい、何の言い訳も出来ず、
「お前いい加減にせぇよ!」
と、ビンタされてしまった。
こうして俺はその場にシマ君さんと親父を取り残し、走って逃げ出したのだった。
逃げた先は近所の公園のベンチ。
しばらく座りながらイロイロナコトを考えていると、
「木場?」
シマ君さんが迎えにきてくれた。




