絵の具は不味い
バシッ!
頭に鈍い痛みを感じる。
目の前にいるのはタム。
叩かれた意味は分からないけど、タムが俺を叩くのにいちいち理由は要らない。それに、少し痛むだけの力加減なのだから、大した事がないと思えてしまえる程俺も叩かれる事に慣れてしまっていた。
もしこれがヒロやヨネゾーならば文句を言っている所だが、相手はタム。
友達付き合いを始めて大分経つと言うのに、ヒロやヨネゾーが傍にいないと、俺とタムの間は途端に小学生だった頃の上下関係に戻ってしまう。
贔屓される側の良い生徒と、贔屓されない悪い生徒。
ヒロとヨネゾーがトイレに出て行った美術室の中、タムと2人きりにならないようにと入った準備室内。
ソッと閉めたドアを勢い良く開け放つタム。
「なーに逃げてん?」
逃げたくもなる。
「絵の具取りに来ただけやし」
そう言って机の上にあった絵の具を手にして美術室に戻ろうとしても、入り口にタムが立っているので身動きは取れない。
「何色?」
「黒」
答えるとタムは入り口からいなくなったので、俺は美術室に戻った。そして黒の絵の具を手に持っているタムと目が、合ってしまった。
「言うたら貸したるのに。手」
手を出せ、そう言われて手を出すと、掌に直接黒の絵の具を出される。そしてその手を捕まれ、
パシッ!
俺の頭を叩いているのは、タムに手を掴まれている俺の手。黒い絵の具を掌に出されている、俺の手だ。




