不可解
夕飯を食べていると着信音が聞こえてきた。
食事中だったので食べ終わるまで出ない事にした訳なのだが、ズット鳴っている。
余りにもズット鳴っているから、弟が俺の部屋から携帯を持ってきて、
「五月蝿い」
と。
「はい……」
仕方なく出てみていつもと違う事に気が付いた。
電話が、切れない。
「もしもし?」
しかも無言だ。
しかし、完全な無音と言う訳ではなく、耳をすませてみると音がする。
キーボードでなにかを打ち込んでいるような、ポチポチという音に混じって扇風機かなにか……風の音。そしてマウスをクリックするようなカチッカチッという音。
ポチポチポチポチ。
「あの……もしもーし」
ポチポチ、ターン。
エンターキーを叩く音が聞こえてスグ、
「ピィィィィィガガガガガガガ」
機械音と言うのか、ノイズ音と言うのか、取り敢えず物凄い耳障りな音が大音量で流れてきた。
余りの五月蝿さから慌てて携帯を離し、徐々に込み上げて来る恐怖心から、俺は初めて自分から通話を切った。
ピロリロリン♪
え……。
ピロリロリン♪
また?
ピロリロリン♪
「五月蝿い」
弟がまた不機嫌そうに言うから、今度は少し耳を離して電話に出る。
「ガガガガガガガ……ピィィィィ」
少しだけ音量が小さくなっている気がする音。
何が目的なんだ?
これを切ったら、またかかってくるだけ?
あ……だったら、このまま放置したら良いんじゃないか?だって、かけて来たのは向こう。と言う事は、通話料は向こうにかかるんだ。
うん、いつまでも切らずに通話料を増やしてやろうじゃないか!
ドエライ金額請求が来れば、こんな事をしたいとは二度と思わない筈。
俺は少々五月蝿い携帯を部屋の窓側に置いて、食事の続きを始めた。
ゆっくりと食べて、部屋に戻って携帯に耳を近付けてみると、まだ機械音が鳴っている。
何が楽しいんだろうか?と、疑問に思いながらそのままお風呂へ。30分程であがり、部屋に戻って携帯へ耳を近付けると……
「もしもし……あのー……もしもーし……」
喋っている!?
「え!?あ、もしもし?」
新しい展開にビックリして、普通に受け答えをしてしまった。
「えっと……こんな夜にすいません……」
いや、全くその通りだよ!
そうじゃなくて、何故俺の携帯番号を知っているのかを聞かなければ!それと、何故イタズラ電話をしたり、無言電話だったり、機械音だったのかを聞かなければ!
「……何の用?」
ザックリとし過ぎてしまった。
「ウチの学校で、その携帯番号が広まってて、それで本当に繋がるのかどうか確かめていました」
もう、色々不可解過ぎる。
何故知らない学校で俺の番号が広まるんだ?本当に広まっているとしても、繋がるのかどうかなんて始めの1回かければそれで解決するだろ。なのに、何日も何日も……。
「……じゃあ、もうかけて来ないで下さい」
「あっ、ちょっと待って」
切ろうとした所で呼び止められたので、そのまま次の言葉を待つ。
「えっと……大阪の人って、お好み焼きをおかずに白飯を食べるって、本当ですか?」
なにその質問!
そして何故俺が大阪に住んでいる事を知っている?
考えれば考える程不可解で、怖い。だったら、サクッと答えて終わりにしよう。
「普通に食べますよ」
よし終わりだ!
「まじですか、凄い……」
何が凄いんだ?炭水化物に炭水化物、とか言いたいのだろうか?だったら焼きそばパンとか、コロッケバーガーもそうだろ!
「じゃあ、もうかけて来ないで下さい」
プツッ。
よっし、これで数日間続いた恐怖が終わった!
と、この時は思った。




