花火大会
花火大会の日、俺はカズマと2人で出店の並ぶ商店街の中を歩いていた。
カズマの知り合いが商店街を外れた場所に住んでいて、部屋の窓から花火が見られる。と聞いたからだ。
しかし、その商店街はかなり長いのでどの道をどう外れたら良いのかが分からない。
「何処?」
「さぁ……」
そんなやり取りを数回繰り返していると、カズマの携帯に知り合いの人から電話がかかってきて、駅まで迎えにきてくれる事になった。
急いで駅まで引き返し、そこで待つ事30分ほどしてやってきた男性にカズマは手を上げて挨拶し、俺も一緒に頭を下げたのだが、即刻帰りたいと思えるほど怪しい雰囲気だった。
案内されるがままアパートの中に通され、部屋の中へ。1Kの間取りで大きな窓が1つと、小さな窓が1つ。開け放たれた大きな窓の外には、確かに花火がチラッとだけ見える。
大きな建物が立ち並んでいるせいで見えないだけなので、音はハッキリ聞こえてくるから花火大会の雰囲気は味わえるし、男性が用意していたお酒を飲めば、まぁまぁ充実した花火大会の楽しみ方だとも思ったりした。
帰りが電車である事から、何となく「泊まろう」との雰囲気が部屋中に漂い始めた頃、カズマがご両親から外泊の許可を取るために電話をかけ始め、すると男性は俺にも親に外泊許可を取るようにと言ってきた。
結構自由な教育方針の親父はこの頃、更に自分放題な教育方針だったので、確実に外泊許可が取れると思っていたのだが……、
「アホか!帰って来い!!」
物凄い勢いで怒鳴られてしまった。そしてカズマもまたご両親から厳しく帰宅するようにと言われたらしく、俺達は大人しく男性の部屋を出て駅に向かった。
券売機に向かうと1人の駅員さんが券売機の前にシャッターを下ろしている最中で、俺達を見るなり、
「終電行ったわ」
と、親切に教えてくれた……。
「どうする?」
「終電ないってもう1回家に電話しよか」
そうやって2度目の説得の結果、両家の親達は揃って、
「タクシーで帰って来い!」
だった。
しかし、長い商店街を抜けない事には大通りには出られないし、どっちの出口に向かった先にタクシー乗り場があるのかも分からない。更に、深夜なので商店街はガランとしていて誰も歩いていない。
「どっちでも大通りに出るやろ」
そう言うカズマに着いて歩く、歩く、歩く。商店街を抜けると目の前に大通りがあり、タクシーを求めて大通り沿いを少し歩くと、丁度タクシーが来た。
この時点で「帰って来い」と言われてから軽く1時間は経っている。
地元の最寄り駅までタクシーで戻って来た後は、自宅までの徒歩移動。
カズマは駅から見て左側に家があり、俺は右側。だから早々に分かれる事になるのだが、カズマは何故か俺について道を右に曲がってきた。
「家向こうやん」
そう立ち止まってみれば、
「今日誘ったん俺やし、家の近所まで送るわ」
と、立ち止まった俺の背中をグイグイと押してきて、結局家の前まで送り届けてくれたのだが、家の前で待っていた親父を見るなりピタリと立ち止まった。
「帰ってきたか」
怒るでもなく声をかけてきた親父はそのまま大通りの方へと歩き出し、キョロキョロと道路を見渡すと不意に手を上げ、スゥーっと止まったタクシーの運転手さんに幾らか支払った後、
「危ないからタクシーで帰り」
と、カズマをタクシーに乗せた。
紳士的な親父はこの後、酔い潰れて眠るまで延々と嫌味を言って来るのであった。




