雨の中帰宅
学校からの帰り道。
重苦しく曇っていた空から大粒の雨が降り出した。
ポツッ、ポツッ。
雨粒が大きいから、これは一気に降るなぁ。
傘を持っていなかった俺は、走って帰れば本降りになる前には帰れる。とか言う根拠もない自信に溢れていて、学校に戻らず家に向けて走り出した。
それからしばらくも経たず。
ザァァァァァァァ。
綺麗にずぶ濡れになってしまい、走る事を止めて歩き出す。もう濡れる所がないのだから、急いで帰る必要がないと思ったからだ。
ドシャブリの中、ノンビリと濡れながら歩く俺はさぞかし目立ったのだろう、1人のご婦人が声かかけてきた。
「どうしたん!?」
どうしたもこうしたも、帰宅途中である。
「家に帰る所です」
「傘は!?」
持っているように見えるのだろうか?と不思議に思っていると、黒い傘を目の前に差し出された。
ご婦人は無言だったが、使え。と態度で示してくる。
ビニール傘ならともかく、こんなちゃんとした傘を受け取る訳にはいかない。
「家近いので大丈夫です」
それに、今更傘を差した所で、手遅れなのだ。
「えぇから使い!」
ご婦人は黒い傘を俺の頭上に広げ、柄の部分を差し出してくる。
ここまでされて付き返すのは難しいが、受け取る訳にもいかないし……走り去った方が良いのだろうか?
いや、説明しよう。
まだ雨は降っているけど、もう傘はいらないんだ。もう、濡れる場所が無いんだ。
「大丈夫です。靴下まで濡れていますから」
言うと、ご婦人の視線は俺の足元へ。それからゆっくりと視線を上げて俺の顔を眺め、
「そうか……気ぃ付けて帰るんやで」
納得してくれた。




