お断り
放課後、文化祭に展示する粘土彫刻を作っている俺の隣には、その俺をスケッチしているヒロがいた。ヨネゾーは風景画を描く為に窓の所にいて、タムは粘土彫刻を美術室のすみっこで制作中だ。
こうして人にスケッチされていると、小学1、2年の時の担任を思い出す。
「俺って描き易いん?」
あの頃の担任にも聞きたい質問だ。
「描きやすくはないんけど……」
描きやすくもないのに態々描いてるのか?どんな苦行だ?
少し気になったので一旦手を止めヒロのスケッチを覗き込むが、デッサン人形のような物が何個か描かれているだけでどう見たって俺ではない。
「なに描いてたん」
「モデルが木場っちとは言うてへんやん」
「じゃあもーちょい向こうで描きぃや」
2歩程下がったヒロは、また熱心に俺を見ながらスケッチを始めた。モデルが俺じゃないならこっちを見る意味は何なのだろうか?
気になってまた手を止める。
「こっち見んなや」
そう言ってもヒロは微笑むばかり。
嫌がらせなのだろうか?にしたって急に嫌われるような事はしていないと……無理矢理に美術部に入れた事を怒っている?
そう思うとそうにしか感じられなくなり、次から次へと罪悪感が押し寄せてきた。
帰宅部を貫き通していた理由も聞かず、ヒロの意見も無視して強引に部員にした。怒って当然だ。なのにこの程度の反撃で何を嫌がっているんだ?けど、見られたくない。こんな俺は人にお見せ出来る代物ではない。
恥ずかしさがピークに達した時、俺は風景画を描き始めるから。と、美術室を出て渡り廊下に向かった。
中学には中庭があり、その中央には池があって、鯉がいた。絵を描くにはもってこいの場所ではあるが、吹奏楽部の練習でかなり五月蝿い。
「あれ?」
鯉を描き始めてスグ、下足室に向かう途中だったらしいカズマが話しかけてきた。
「帰るとこ?」
他に何をするように見えると言うのだろう?と自分でも思ったが、他に言葉が見当たらなかった。
「ちょっとえぇかな」
ちょいちょいと手招きされて下足室までついて行くと、
「バンド、俺らだけでやれへん?キユウにも声かけてさ」
どうやらカズマのバンド熱は冷めていなかったようだ。だったら、やろう。キユウがいるなら技術面も問題ない。
「と、言う事やねん。文化祭のバンド演奏、出ようや」
下足室で張り込み、やって来たキユウにカズマと2人で頼み込む。
「え?嫌や」
キユウの態度はかなり冷めていて、文化祭には出ないという確かな意思を感じさせた。それでも引き下がれない。折角出来上がった曲を1度も披露出来ないなんて悲し過ぎる。
「一緒にやろ?バンド組んでって言うてきたんキユウやんか」
「そんなん言われても嫌やし」
俺達を避けるように遠回りして自分のロッカー前に行くキユウの後ろをついて回り、何度も頼んだ。しかし得られる答えに変化はなく、最終的にはしつこいと怒鳴られてしまった。
そんなに人前で演奏するのが嫌なら、なんでバンドなんか組んだのだろう?キユウもただキラの部屋に行く口実にバンドを利用しただけなのか?
悲しい気分とは裏腹に、俺はキユウの嫌がり方を見てホッとしていた。
俺が美術部に入る事を強要した時のヒロからは、今のキユウのような嫌悪感剥き出しの反応はなかったのだから。




