亀裂
美術部の顧問には、既に書道部顧問だった国語教師が掛け持ちをしてくれる事になり、なんとかちゃんとした部活動として認められたのだが、依然として部長は決まらないまま時間が流れた。
それでも顧問が出来た事でちゃんとした活動が出来ていたので、俺達はこのままで良いと思っていた。
しかし、期末テストも近付いて来たある時、顧問から文化祭に向けての提案があった。
「美術室で展示会するで!」
しよう。ではなく、するで。決定事項を告げられたのだ。
絵と彫刻を1人1点ずつ仕上げろと言う無茶振りだった。そして再び議題にあがる部長決め。
俺はキラ達と共に、文化祭にバンド演奏をしよう。と盛り上がっていた。だから文化祭当日は忙しくなるだろうと言って部長になる事を断ったのだが、他3名もクラスの出し物によっては忙しくなるからと、この議題を華麗に交わした。
キラの部屋では相変わらずイチャイチャしているカップルと、カップルに背を向けて作曲をしているカズマがいた。
「どない?」
カズマの肩を叩いて声をかけると、チラッとカップルを睨んだ後表情を改め、ヘッドフォンを差し出してきた。
2人で試行錯誤して作ってきた曲が形になっていた。だから後は練習するだけ。
「なぁ、練習しよ」
ベッドの中にいるカップルの、多分背中だろうと思われる場所を叩くと、ベッドから顔だけ出したキラは、
「土曜にスタジオ予約入れてる」
と、ダルそうに言ってきた。
凄い!
バンドっぽい!
始めてバンドマンって自覚が出た!
冷め遣らぬテンションで迎えた土曜日。
どことなく誇らしげな表情で待ち合わせ場所にいたカズマと合流し、いつもよりもお洒落をしているキユウと合流し、10分経ち、30分が経ち。
キラが来ない。
待ち合わせ時間を間違えた訳でも、待ち合わせ場所を間違えた訳でもないのでキラが寝坊でもしたのだろう。そう思い、キユウがキラに連絡を入れた。
「えぇ!?」
キユウの声に俺達は顔を見合わせる。何か恐ろしい事が起きたのではないか……。
少し喋っていたキユウは、分かった。と電話を切ると俺達の前に立ち、俯いて黙った。
「なに?どうしたん?」
優しげにキユウの肩をポンと叩くカズマ。
「キラ、今スタジオおるねんて」
は?
待ち合わせ場所にも来ないでそのまま行ったのか?
「あ、じゃあ俺らも行かな」
「じゃなくて、他のメンバーと練習してんの」
はい?
キユウの話によると、キラは他にもバンドを組んでいて、そっちで主に活動しているらしい。
俺らとバンドを組んでいた理由。それは……
「はぁ!?なんやねんそれ!」
カズマは道の真ん中で大声を上げたが、それはしょうがないと思った。
キラが俺達とバンドを組んだ本当の理由は、部屋に堂々と彼女を連れ込む為の口実、だったのだから。




