家庭教師との出会い
バンドらしい活動が皆無であろうとも、美術部での雑談後買い物をして家に帰り、夕食の準備をしてからキラの部屋に集まる。という慌しい日々を過ごしていたある日の夕暮れ。
ヘッドフォンで作曲をするカズマの隣で作詞をしている俺、その後ろではベッドの中でイチャイチャするキラとキユウ。
「これ、ちょっと聞いてみて」
と、手渡されるヘッドフォン。
「歌い出しどっから?」
「ジャンジャン、タン、の次」
音符が一言も出て来ないが、コレでも真剣に作曲をしている最中の会話である。
かなり低レベルながらにも少しずつ曲になって行くのは楽しかった。
「あー、そろそろ家庭教師来るわ」
時計のアラームが鳴ってベッドから顔を出したキラが声をかけてきて、俺達は部屋を出て3階の空き部屋に入り、家庭教師が帰るまでの自由時間を過ごす。
家庭教師とは言ってもキラの家近所に住んでいる高校生で、キユウの勉強も見ていたという優しい人。
「トイレ行ってくる」
3階に移動する前にトイレのある1階に向かうと、階段で家庭教師と鉢合わせた。
2階に向かいたい家庭教師と1階に降りたい俺は、狭い階段で何度か同じ方向に避けようとしては苦笑いを繰り返す事になった。
「友達?」
声をかけられた。
「一応バンド仲間……です」
活動はしていませんが、と心の中で続ける。
「バンドしてるん?楽器は?なにやってんの?」
「ベース……です」
ベースはまだ持っていませんが、とまた心の中で言ってみる。
「凄っ……ちょっと弾いてる所見せて」
え?いや、今ベース所かギターもないし!?
「えっと、じゃあ今度……」
そう言って階段の壁に背中を付けて道を譲ると、家庭教師は満面の笑顔で階段を上っていった。
その後姿を眺めながら、ベースを買おうと真剣に思った。




