ヨネゾーの頼み事
俺がバスケを辞めた事を知ったヨネゾーが教室にやって来た。
朝のHR前で、遅刻時間ギリギリに登校した俺の所に来るのはかなり珍しい事だ。
「なぁ、バスケ辞めたんやんな?」
予鈴が鳴り響く中、ヨネゾーは分かっているくせにそんな事を確認してくる。
「うん」
本鈴前に教室に戻そうとサッサと答えて手を振るが、それでも帰っていかないヨネゾー。
「じゃあ、付き合ってや」
教室にいる生徒達のザワメキを聞いた気がした。いや、そもそも誤解されるような言葉を選んで言ったんだろう。
こうして放課後、連れて来られたのは美術室。
中には2人の3年がいたのだが、特に何をするでもなく2人で喋っていて、俺を見るとコソコソと小声になった。
ここは何なのだろう?
何の説明もされないまま少し経ち、3年の2人は美術室の鍵をヨネゾーに託して帰ってしまった。
「木場……」
目の前まで歩いてきたヨネゾーは両手で俺の手を握る。これは誰だって勘違いをしたって可笑しくないシチュエーションだ。
「なにっ?なに、なに?」
ほとんどパニックである。
「頼む!美術部一緒にやろっ!」
はい?
どうやら現時点で部員数3名の美術部は、さっきの3年2人が引退すると廃部が決定してしまうらしい。
廃部を阻止するには4人の部員が必要。と、かなり長い時間をかけて説明するヨネゾーは、相当俺を数に入れたかったのだろう、終始手を握ったままだった。




