犯人はクラスの中 ※
C組で弁当を食べる時にだけ固まる集団の中、無言で弁当を食べ終えた後は無言でA組に行く。
そんな事を繰り返していくうち、俺はその集団の中でも浮く存在となっていたらしい。
弁当を食べる時に机を寄せると嫌な顔をされるようになり、聞こえるように「また来た」とか言われるようになってきたのだ。
それでも強引に机を寄せて食べるだけ。
担任さえ“皆と食べろ”と言わなければ普通に1人で食べている。
そんな空気を、当人の俺よりも深刻に見ていたのはユカちゃんだった。
「ちょっと喋ろ」
そう言って呼び出され、あの集団が言っているのだろう陰口の一部始終を聞かされ、その後に続いたのは沈黙。
反応を待っているのだろうと感じた俺は、特に何も感じなかった頭の中をフル回転させ、かなりもっともらしい事を言おうと奮起したが何も浮かばず、だったら思った通り伝えようと口を開いた。
「気にしてへんよ。食べてA組行くだけやし」
そもそもC組に友達もいないし、ナチュラルなボッチなのだから遠巻きにされるような空気は寧ろ有難い……と続けようとした所、
「明日から、一緒に食べよっか」
と、思いもよらない言葉が返ってきた。
脳内は一気にパニックだ。
「え!?今でも一緒に食べてるやん?横?横って事?俺食べ終わったらA組行くで?」
こうして翌日から俺の隣に来るようになったユカちゃんだが、特に何かを喋る事もなく、俺は食べ終えるとそのままA組に行っていた。
それからしばらく経った頃、パタリと学校に来なくなってしまったユカちゃん。休んでいた期間は覚えていないが、半月程だったと思う。そして登校してきた時、とんでもない変化が起きていた。
ユカちゃんは教室に入る事すら1人では出来なくなってしまい、学校にいる大半の時間を保健室で過ごすようになったのだ。
そんなある日の事、保険医に呼ばれた。
何だろうかと緊張しながら入った保険室内では、ユカちゃんが俯いて座っている。
「次の授業受けたいから、教室に連れていって欲しいって」
そう保険医に言われ、1歩1歩廊下を歩き出す。
重たそうな足取りと、辛そうな表情。C組の教室がある2階に行くと唇を噛み締めていた。
何か声をかけた方が良いのだろうか?でもなんて言えば?
「……」
何も浮かばず、ただ無言で手を取って歩く。教室のドアを開けて、後は席まで行くだけ。だけど、ここで足がピタリと止まる。
トントントントン。
だけど何も声をかけられないから、俺は繋いでいない方の手で背中を叩く事しか出来ない。それでも本当に1歩ずつ前に進んで、チャイムが鳴ってから10分程で席に座る事が出来た。
やった!
と思っても手が離れない。
「木場君に用事があるから、離してね」
後ろから着いて来ていた保険医がそう優しく言って手を離させ、そのまま廊下に俺を連れ出す。
「なんかね、C組から出て行けって言われたらしいのよ」
物凄くサラリと重要な事を言った保険医は、そのまま教室内を眺める。その様子から犯人を知っているのだろう。
「これからも仲良くしてあげてね」
そう笑顔で保険医は去っていき、俺は“託された”と思ってその日はズット保健室と教室の往復を続けた。
ギュッと握られた手と、少しだけ見せてくれるようになった笑顔が嬉しかった。
翌日。
登校すると下足室にユカちゃんが立っていたので、俺は思いっきり勇気を出して自分から声をかけた。
「おはよ」
片手を挙げながら、多少不器用になったかもしれない笑顔で。
立っていたユカちゃんがこっちに向かって歩いてくるから、もしかしたら返事をくれるのかも知れないと思ったが、実際には睨むように見られただけで通り過ぎて行った。
昨日の今日で少々馴れ馴れしかったかな。
そう軽く反省しながら教室に入ると、黒板には“ユカちゃんのロッカーの中に入っていた手紙”と書かれていて、そこに1枚の手紙が張り出されていた。
教室にさっさと入れ、授業の時間が短くなるやろ、ずっと手も握られてて迷惑。
みたいな事がズラズラと書かれた手紙。
昨日手を握られていたのは俺だ。それを迷惑がる事が出来るのは誰?俺?
「最低」
どうやら、俺が書いた手紙らしい。
今登校してきたばかりの俺がどうやって手紙を入れられる?考えたら分かるだろ?え?分からない?
保険医は誰が原因なのかも知っている風だったし、この手紙も俺じゃないって分かってくれる筈だ。それに俺の字じゃないんだから担任にだって分かる筈。
そう思っていたのだが、誰も分かってはくれなかったのでしたとさ。




