オッサン
幼稚園から戻り、公園まで遊びに行っていた時の事。
いつもは家で絵を描いたりして遊んでいる俺が、その日に何故公園に行ったのか。それはただ風景画と言う物に興味を持っただけだった。
滑り台にもブランコにさえ背を向け、ベンチに座って、遊ぶ他の子供でも木でもなく、雑草を描く。
幼稚園の制服を着たまま只管絵を描く俺は相当目立ったのだろう、しばらくすると1人のオッサンが話しかけてきた。
「何やってんの?」
オッサンは俺がモデルとしていた花の上に立ち止まり、俺を見下ろしていた。
この公園にいる子供の親だろう、そう思ったので特に逃げもせず、
「絵ぇ描いててん」
と答えた。もちろんオッサンの足の下にある花を描いていた、とは言わない。
「へぇ、凄いなぁ。おっちゃんに見せてくれる?」
褒められる事がそんなになかった俺は、オッサンのこの一言に気分を良くし、自由帳を捲りながら、絵の説明を始めた。
ふと気が付くと公園で遊んでいた子供は皆帰っていた。
あれ?誰かの親じゃなかったのか?
急激に襲ってくる恐怖に立ち上がると、オッサンは笑顔を崩さずにこう言った。
「SINちゃん、説明途中やで」
オッサンは名札を見て俺の名前を呼び、ホラ座って、と腕を掴んでかなり強引にベンチに座らせた。
説明を終わらせなければ帰れない。
かなり早口で説明を続け、バレないようにページを2枚一気に捲ったりしながらようやく真っ白のページになった。
終わりだ、そう伝えようと見上げるとオッサンはまだ笑顔で、ゆっくりと手を俺に伸ばしてくる。
なに?なに?
徐々に迫ってくる大きな手は、俺の頭にポンと乗り、ヨシヨシと撫ぜてきた。
「ありがとうな、もう遅いから気ぃ付けて帰りぃや」
オッサンは、最後にニカリと笑って帰っていった。




