かるた大会
中学、冬の行事の1つにクラス対抗の「かるた大会」があった。
5人1組の班を6組だったか、5組だったか……それくらい作り、1試合毎に違う班が試合に出る。
1年4クラス、2年4クラスの全員が体育館に集まっての百人一首は、最後に1年の最強クラス対2年の最強クラスの優勝争いまであって、中々盛り上がる。
その反動で、第1試合目で負けてしまったクラスのやる気は一気に下がってしまう。
負ける訳にはいかない……そんな重圧が圧し掛かる大会方式に、誰もが勝つ事だけを目標にし、練習も随分とした。
5人で1組なのだから1人20首暗記すれば死角なし。と言う事で俺達の班は他の班が何度も何度も百人一首をしている横で自分が担当した20首を覚える為に何度も何度もノートに書いたのだった。
こうして訪れた大会当日。
俺達の出番は第3試合目……正直、それまでに負けると思って気楽にしていたと言うのに……。
「お前ら勝てよ!」
そんな声に背中を押され、1年最強クラスを決める為の準決勝戦に挑んだ。
かるたが並んだ畳の上をサラリと見れば、俺の担当した首が遠い場所にしかなく、近くにあるのは1首しかない。
俺は1番端っこだったので、端にある札は全て俺が取らなければならない。そこに、知っている札が1枚もないのだ!
マズイ……。
始まる前の挨拶をする為に顔を上げ、前に座っている生徒を見れば、そこには見た事のある女子生徒が座っていて、先生の「礼」の言葉ですらピクリとも頭を下げない。
こいつはユカちゃんを「タマ」と命名した、ちょっと怖い女子。武田(仮)だ。
怖いので熱心に札を見つめながら始まった試合。
「はい!」
「はい!」
次々に札を取っていく仲間に触発され、俺も覚えた首以外の札も何枚か取れた。
そして終に、俺が覚えた首が読み上げられ、
「はぁい!」
思いっきり取った。必要以上に力強く取った。
間違いなくこの歌。
俺の札!
得意げに取った札の山に重ねようとして、違和感。
あれ?俺が前に取った札の歌、これだっけ?
まぁ、長い事歌を聴いてるし、記憶違いだろう。
そう自己解決させて再び札に集中し、1枚札を取った時に違和感が確信に変わった。
札がない。
俺が覚えた歌、さっき取った歌の札が、重ねて置いていた山の1番上にない。手にとって1枚1枚確認してみてもない。
まさか?と思って武田の札の山を見ると、その1番上には俺の札が堂々と重ねられていた。
嘘だろ!?
最低でも2枚奪われるまで気が付かなかったなんて!
残りの札は後少しで真ん中に集めて並べ直されたので、端にいる俺が取るには大分手を伸ばさなければならない。そして俺が覚えた札はもう残っていない。
なので、残った時間延々と武田を観察していた。
残りの札に注目しているように視線も、体の向きも中央に向けながら、右手だけがソロソロと畳の淵の下を這うようにして俺の取った札の山に向かって伸びてきた。
慣れてやがる。
ソッと札の山の上に手を置くと、少しして武田の手が俺の手に触れた。ビックリしたのか、俺を見てくる武田の顔は不気味な笑顔。
取った札を全部返せ。と言うには絶好のタイミングだったと言うのに、俺はその不気味な笑顔で士気を削ぎ落とされ、黙ってしまった。
こうして終わった試合。最後に自分の取った札の枚数を申告しなければならない。
俺が持っているのは5枚。だけど、少なくとも後2枚はあった筈なのだ。取られたんだ、犯人も分かってる。
「木場は?」
手元にある5枚と答えるのか、それとも確実に取った枚数である7枚と答えるのか……。
「……5枚」
俺のクラスはこの大会で、1年の部で優勝した。




