謎の訪問
正月休み、従兄弟が集まっての飲み会でリビングが少々喧しい時、俺はその場にいてビールが注がれたコップを片手に俯いていた。
当然の事ながら人見知り全開である。
何か喋った方が良いと言うのは、従兄弟が家に来た時点からズット思っていた事ではあるのだが、いらっしゃいすら声に出せなかった俺は完全に声を出す切欠を失っていた。
何も言えないし、何も言われない。
多少居た堪れないが、思いっきり話しかけられた方がきっと地獄なのだろうとビールを飲み干し、空になったコップを持て余す。
同じ姿勢のままでいるせいで体が痛み出した時、
ピンポーン♪
来客を告げるチャイムが鳴った。
誰だろう?と不思議そうに玄関を開けた祖母がなにか喋っているが、リビングではそれ以上の大声で喋るオッサン連中がいて、来客者が誰なのかは分からない。
「SIN、お客さん」
不意に名前を呼ばれて玄関を見ると、こっちを見ている同級生が1人立っていた。
何故ここに?
え?なんでここに?
立っていたのは隣のクラスの女子で、苗字は葛西(仮)で名前は知らない。そんな相手がどうして俺の家を知っている!?
少し喋ろうと言われたので家を出て、とりあえず公園に向かって歩き出すが、無言。
当然、人見知り全開なのである。
なんだろう?嫌がらせでも始まるのだろうか?それともなにかの罰ゲーム?
公園の前にあった自動販売機で暖かい飲み物を買って、それをベンチに座って飲んでいても緊張はほぐれないし、葛西も無言のまま。
何か話題を振った方が?って、そんな勇気があるんなら従兄弟に「いらっしゃい」くらい言えている。
体が冷え切っても無言、飲み物を飲みつくしても無言。
これだけ長時間無言って事は、特に用事はなかったのだろう。もしかしたら本当に罰ゲームだったのかも知れない。だとしたら、いつまでもベンチに座っているのはお互いの為にもならない。
「冷えるし帰ろ。家の近所まで送るわ」
精一杯、これが精一杯の言葉だった。




