蟻
人生で1番始めに飼ったペットは、家の前を歩いていた蟻だった。
「うわっ!アリや」
祖母が蟻の行列に向かって水攻撃をすると、一気に隊列が崩れて彼方此方に蟻は逃げて行く。そこを空かさず踏みつけ攻撃。蟻は更に慌てふためき逃げ回る。
すると向こうからノンビリと歩いてきた蟻に、慌てふためいた蟻が近付き、コツンと頭を当てた。するとノンビリしていた蟻も一緒になってパニックに陥り、後ろからやって来る蟻に次々と頭を当てていった。
危険を知らせているのだろうか?
こうして次の日、家の外にはまた蟻の行列が出来ていた。
全員落ち着いた感じで、ゾロゾロと1列に並んで歩いて行く。
ポト。
水を少し蟻の隊列にかけた。
少しの水でも蟻にとっては溺れる程の量、蟻はまたパニックになり、頭を当てての伝達をして行く。
また次の日。
家の外に数匹の蟻がいた。2日にわたってパニックに陥ったこの道を不吉だと思ったのか、それとも餌がなくなったのかは分からないが、隊列がない。
「あ」
蟻を見ていると、そのうち1匹が足を登ってきた。咄嗟にペシンと攻撃して立ち上がると、ペシンとした蟻がヨロヨロと1匹の蟻の頭にコツン。パニックになる蟻。
蟻は明確な伝達方法をもっているんだ!凄い、賢い!
こうして俺はコツンとされてワタワタとしている1匹の蟻をバケツに入れ、密かに飼い始めた。
名前はアイ。餌はパンくずやお菓子の欠片をあげ、時々外の空気を吸わせようと手に乗せて散歩にも行った。
そんな散歩の途中、仕事から帰ってくる親父と会った。
「なにしてんのや?」
笑顔で歩いてくる親父。
そうだ、俺のペットを見せてあげよう。
「おとうさん。見て~」
俺はアイを乗せた掌を親父の前に出した。
パシン!
え?
「大丈夫か!?噛まれてへんか!?」
え?
「早ぅ帰って手ぇ洗え!」
え?




