初めての
誕生日と言うイベント。
それまでは特に意識も何もしていなかった、年に1度のイベント。
学校行事の「お誕生日会」ですら、授業が潰れてラッキー位にしか感じていない程、興味も何もないイベント。
弟と親父、祖母の誕生日は祝ってはいたが、それだって「おめでとう」の一言と安いプレゼント1つでおしまい。
1つ年をとる事が、何故そんなにめでたいんだ?と、相当冷めていた。
しかし、初めて出来た友達の誕生日となれば、話は大きく違ってくる。
なにをあげよう?
なにをあげたら喜ぶ?
デパート内をグルグル回りながら、かなり真剣に悩んだ。
時計?アクセサリー?食べ物?玩具?文房具?
そして地下に足が伸びた時、変なスイッチが入った。
手作りお菓子だ!
失敗が許されないのでクッキーミックスを買い、麺棒やクッキー型、クッキングシートと、道具も一式全て買い揃えた。
バターと卵を良く混ぜてください。との説明文通りグルグルと混ぜ、打ち粉をしたまな板の上に乗せ、麺棒で5ミリ程の厚さに伸ばす。
説明文通りに。
こうして出来上がったクッキーは、サクッと美味しいクッキーに仕上がった。
翌日。
少し早めに学校に行き、登校して来るのを待つ。
喜んでくれるだろうか?と、ワクワクしながら待っていたのだが、登校して来る生徒が1人、1人と増えて教室の中がやかましくなって来ると、急激に頭が冷静さを取り戻した。
中学生の男友達に手作りクッキー。
なんと言う異常さだろう。
チラリと自分の鞄を見ると、クッキーを入れた箱の形に鞄が膨れている。それが恥ずかしくてしょうがない。
箱にはいちいち「誕生日おめでとう」と書いてしまったので、誰かに「鞄の中に何が入ってるん?」と突っ込まれた時点でおしまいだ。
ギュッ。
バリバリッ。
鞄に圧力をかけて、箱を押し潰してみた。
よし、これで目立たない。後は代わりになるプレゼントを用意すれば良いだけだ。
なにが良い?
簡単な事だ。
「おはよー」
遅刻ギリギリに登校して来たヨネゾーは、いつもと変わらない様子だ。
よし、祝うぞ!
「誕生日おめでと。帰りにジュース奢るわ」
こうして初めて作ったクッキーは、弟のおやつになったのでした。




