ちゃんと呼んで
弟は俺をちゃんと呼んだ事がない。
人に俺を紹介する時ですら、だ。
いつかちゃんと呼ばせてやるんだ!
そんな事に燃えた時期が何度かあった。
1度その熱が燃え上がると2日は奮闘するのだが、それでも弟は頑なに呼ばない。
ちゃんとすれば自然と呼ぶようになるのでは?そう思って何度かチャレンジしては失敗を繰り返していたので、ここに来て俺は作戦変更を思い立った。
さてどうするか?
そして思った。俺は弟をなんて呼んでいるだろうか?と。
「おい」とか「お前」だった。
ちゃんと呼ばれたいのなら、ここは率先して俺から呼び名を意識しなくては!
家に帰ると、ダイニングには宿題をしている弟。俺は意気揚々と声をかけた。
「ただいま、弟クン!」
へ?と違和感を覚えている弟に、
「宿題してんのか~弟クン!分からん所があったら言うねんで弟クン!」
とりあえず「弟クン」を連呼してみた。すると徐々に慣れてきたらしく反応がなくなった。
今回も失敗に終わってしまうのか?
「特に分からん所はないで、SINクン」
うん、失敗した。




