「う~」の口
かなり機嫌が良かったのか、ヒロが口笛を吹いていた。曲は流行の歌でもなんでもなく、音楽の授業の後と言う事があったからなのか校歌。
それを聞いていたタムも、何で校歌やねんとか言いながら一緒になって吹き始める。
音楽室では2人分の校歌、口笛バージョンと何人かの笑い声。
それを横目に俺は特に仲間にも入らず、教室に戻るべく廊下を歩く。音楽の教科書で口元を隠しながら。
「フー、フゥー、フゥゥー」
俺は、口笛が吹けない。
息が切れた所で諦めると後ろから肩を叩かれた。振り返るとヨネゾーの笑顔が見える。
「元気ない?」
どうやら口笛の練習をしていた一連の動作を苦しんでいると見たらしい。
「口笛吹ける?」
え?と首を傾げたヨネゾーは、特に何の曲を吹く訳でもなくピーピーと吹き、続いてウグイスの真似をして見せた。
上級者か!?
「吹かれへんの?」
ニヤニヤとするヨネゾーが鬱陶しい。しかしその通りなので反論も出来ない。結局、
「うっさい」
と、教室に向けて歩き出した。
「簡単やって。まずな、うーって言うて」
「うー?」
急に廊下で始まった口笛講座。
「そんで舌を下の歯に引っ付けるねん。んで口を窄めて息を思いっきり吐いて」
さぁどうぞ!と言わんばかりのフリをしたヨネゾー。なので言われた通り思いっきり息を吐いた。
「ふぅー!」
「あれ?もう1回」
何度か繰り返してみるが、やっぱり音はならない。そのうち顔の筋肉が痛くなってきた。
「この口の形でホンマに合ってる?」
と、うーの口をして見せると、少しだけ俺を眺めていたヨネゾーが不意に笑い出す。そして、
「キス待ち顔」
とか良いながら両手で俺の顔を覆い隠した。
俺が未だに口笛が吹けないのは、練習しようとして「うー」の口をする度頭に「キス待ち顔」と浮かんでくるせいだ。




