初めてのカラオケ
雨の日の放課後。
俺はヨネゾーと2人でカラオケ店の中にいた。
歌う為に来た訳なのだが、何を歌えば良いのかが分からなかった俺は、ヨネゾーが1曲歌い終えてもまだ曲を選んでいた。
実際には選んでいるふりをしていただけ。
「まだ決まらん?俺歌うで?」
「うん」
こんなやり取りが3回も続くと、ヨネゾーは曲選びをしなくなってしまい、部屋の中には微かに聞こえて来るBGMだけという静かな空間になってしまった。
「何でもえぇから歌い」
「うん……」
そうは言っても、本当に良く分からないのだからどうしようもない。
ちゃんと歌えるのか?英語の歌詞があるのは止めておこう。原曲+1とは何の事だ?テンポもなにかイジらなければならないのだろうか?
「これは?知ってるやろ?」
と、見かねたヨネゾーが有名な曲の題名を言う。
「サビしか知らん」
「じゃあこれは?」
「……分からん」
「じゃあ2人で歌おか」
そう言ってマイクを手渡され、少しして曲が流れ出した。
ポンポンとマイクを叩くと、スピーカーからボォンボォンとエコーのかかった音がする。フーと息を吹きかけると、ボォーっと雑音がする。
なんだろう、物凄く……ハイテクだ!
しかし、イザ歌い出してみると、いつも家で歌っているようには歌えない。歌い難い。音が外れる。声が出ない。
初めて経験したカラオケは、自分が酷い音痴だと思い知らされた苦い思い出となった。




