黒縁眼鏡
入学祝に新しい眼鏡を買ってもらった。
前の壊れた眼鏡のレンズは保管していたので、それを使って少しでも安く眼鏡を作ろうと思ったが、視力は更に悪くなっていたし、大きさも合わないと店の人に苦笑いをされてしまった。
新しい眼鏡のレンズは、度数は上がっているが以前よりも薄型で、UVカット。フレームも米神に食い込まずにかけ心地も良い。
ただ、黒縁眼鏡で、いかにも真面目!と言うデザインだった。
まだそれが似合っていれば救いがあるが……。
そんな眼鏡だったので授業中にしかかけたくなかったが、入学式にはクラス表を見なければならないので眼鏡は必須。
1年A組の教室に入り、自分の机を確認して座り、自己紹介文などを既に頭の中で考えていると、A組の教室に担任である男性教師が入ってきた。
1人1人簡単な自己紹介をしながらの名前確認。
俺の順番か来た時、担任はそれまで黙って生徒の自己紹介を真剣に聞いていた。
それなのに、
「木場SINです。よろしく……」
「おい木場」
途中で遮ってきた。
流石に名前だけじゃ短過ぎだろうか?
だからって他に何も言えば?
焦る俺を他所に、担任は教卓を離れて近付いてくると真横に立った。
「え、と……」
どう対処して良いのか分からずにいると、
「眼鏡取ってみ」
と、言われた。
俺の前の奴も眼鏡をかけていたと言うのに、取るようには言われていない。
何故自分だけ?
だけど、言われてしまえば取るしかない。
眼鏡を外して机の上に置くと、さっきまではハッキリとしていた視界がボンヤリとして、そのお陰で顔が上がり、担任の顔があるだろう場所を見上げる事が出来た。
「はい……」
取りましたよ。そう自己主張するとポンポンと頭を2回軽く叩かれ、
「取ってた方がえぇわ」
と、言われた。
新しい眼鏡は、それほどまでに似合っていなかったのだ。




