山遊具
学校の砂場の横には、大きな山の遊具があり、その中はトンネルになっていた。
トンネル内部は金属製で、山はコンクリート。山の頂上にはトンネルまで続く穴が開いていて、小声で喋っても声が反響して良く聞こえた。
低学年ならば少し腰を曲げるだけで通り抜けられるトンネルは、高学年にもなると「通り抜けよう」と言う気すら起きないほどに狭い。
そんな狭い場所は、贔屓されない側の生徒にとっては絶好の隠れ場所となっていた。
その日も俺はトンネルの中に本を持ち込んで読んでいた。
会話なんてものはなく、それぞれがそれぞれの事をしている静かな時間に、突如轟音が押し寄せてきた。
「わー!!!」「あー!!!」「あほ!!!」
何人もの声がトンネル内に響く。
頂上にある穴からトンネルに向かって、何人かが大声をあげているのだ。
「お前らうっさい!」
誰かがトンネルの中から穴を見上げて文句を言ったが、次の瞬間ソイツの文句は消えた。
頂上にいる奴らが上から砂を入れてきた為だ。
文句を言っていた奴は穴の真下にいて、見上げながら口を開けていたのだから、少なからず砂が口に入ったのだろう、時々オエェと声をあげた。
「外出ろ、外!」
また誰かが慌てた声を出し、それからスグに感じる冷たさ。
ボタボタボタボタ。
砂の次は水だ。
トンネルの中にいた生徒が次々と外に出て行き、俺も本が濡れないうちにと素早く非難したのだが、トンネル内にはまだ蹲る生徒が1人取り残されていた。
水浸しになる事もお構いなく、生徒は倒れている。
「おい!大丈夫か!?」
様子を見に行った生徒が途端に大声を上げた。
ただ事じゃない雰囲気に怖くなって様子を見に行くと、生徒は頭から血を流して倒れていたのだ。
「だっ!意識っ、意識は!?」
慌てて近付いて聞くと、
「噛み過ぎや」
と、照れ笑いする生徒。思ったよりも大丈夫そうなのでゆっくりとトンネルから出し、保険の先生を呼びに行った。
男子生徒はそのまま救急車で運ばれていき、翌日には頭に包帯を巻いた姿で登校して来た。
良かった、大した事なかったんだ。
贔屓されない側の生徒がそう胸を撫で下ろしていると、担任は苦々しい表情で怪我をした生徒にこう言った。
「そんな姿で卒業なんて、なっさけない」
俺達一同は、イラッとした。




